晋さんの遺影を抱く克子さん。一周忌に各地から寄せられた花々に囲まれ自宅で

『東大教授、若年性アルツハイマーになる』若井克子著、講談社 千540円税込、四六判

 

 

若井晋さんは働き盛りの50代だったが、物忘れが目立ち始めた。漢字を思い出せない、駅で迷う、お金を下ろせなくなる…。異変に気付きつつも、妻の克子さんは、まさか医者で大学教授の夫が「若年性アルツハイマー」だとは思わなかった。

２０２１年に亡くなった元脳外科医、東大教授の晋さんとの歩みを、克子さんは今年1月『東大教授、若年性アルツハイマーになる』（講談社）として刊行。すでに四刷も決まり好評だ。同書には当初の戸惑い、病を受け止めた決意、介護の日々がつづられる。そこには２人をつなぎ、励ます土台としてのキリスト教信仰があった。著者の克子さんに同書を書いたきっかけや届けたい思いを聞いた。

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「『何で僕なんだ！』という怒りや葛藤がはじめはあったと思う。もともと脳外科医として手先も器用な人だった。専門家だからこそ恐れを強く感じていた」と克子さんは振り返る。

晋さんは幼いころから医者を志し、１９６５年に東京大学に入学。学生運動が盛んな時期に、戦争責任や社会問題への関心も高かった。キリスト教の家系だったが、寮を通じて信仰に直面し、内村鑑三、矢内原忠雄につらなる無教会の集会に集った。そこで克子さんと出会い、74年に結婚した。

晋さんは大学卒業後、病院勤務、東大助手をへて日本キリスト教海外医療協力会（ＪＯＣＳ）ワーカーとして家族と台湾にわたった。帰国後、独協医科大学勤務ののち、ＪＯＣＳ総主事も務めた。国際保健領域の業績が認められ、99年に東大の国際地域保健教室教授となった。研究・執筆、海外渡航、学生指導、様々な要職の責務などで多忙だった。

異変は２００１年、54歳のころから。だが当時は認知症の疑い以上に、ストレスによる慢性的な下痢症状の方が家族にとって心配だった。このため06年で教授を引退した。一方物忘れの症状は悪化していた。克子さんは勇気を出して、医者である夫に受診を勧めた。

アルツハイマーの診断を受けても葛藤は続き、病を公けにすることはできなかった。転機は、、、、、、

（克子さんは、晋さんに訪れた出会いを語ります。２０２２年３月１３日号掲載記事）