ティモシー・マッキーとジョナサン・コリンズ(聖書プロジェクト共同創設者)

 

 解説動画はまだ始まりに過ぎない。新アプリが私たちの信仰生活にどう影響するかを見ていこう。記者=チェイス・ミッチェル
(記事原題:The Bible Project Would Like Your Attention, Please. 配信元https://medium.com/faithtech 数回に分けて掲載予定)

この記事は国際的なデジタル宣教ミニストリー「FaithTech」(フェイステック)が発信する記事サイトから「FaithTech日本」の協力で翻訳掲載します。

 

米非営利団体「聖書プロジェクト」がこのほど、スマートフォンなどで利用できるアプリのリリースを発表した(※1)。

聖書プロジェクトはそのユニークなインターネット伝道のアプローチで知られており、デジタルメディアの比較的新しいジャンルとされる解説動画を使い、聖書のストーリーを分かりやすく伝える活動をしている。この人気ウェブサイトは、非営利のアニメーションスタジオによって運営され、2014年以来、約200本の短編動画を制作し、1億回以上視聴されている。

 

この新アプリに流行のメディア技術を取り入れているのは、福音を広く伝えるために聖書プロジェクトが手を尽くしている証しである。解説動画は、投資家やエンジニアに製品やコンセプト、プロセスを簡潔に伝える方法としてシリコンバレーで考案された。

 

聖書プロジェクトは、インターネットを使った伝道にこの方法を取り込んだ。そして次はスマホ用アプリでも同じことができないか模索している。そう考えるのは他も同じで、人はデジタル機器を日常的に使用するため、フェイスブックやインスタグラムを開く画面と同じ場所で、同じように使えるデジタルツールが求められる。

 

私は聖書プロジェクトの活動を支持しており、たくさんの人に動画の視聴を勧めているが、この新アプリの発表は解説動画とアプリに対してより深く考える良い機会だ。

 

聖書プロジェクトは文体が硬く取っ付きにくい本を、見やすい動画シリーズに編集したわけだが、その動画に人気があっても、その人気が聖書の理解や信仰の定着を向上させるわけではない。聖書プロジェクトのようなコンテンツは信仰を基盤としているからこそ、信仰生活におけるインターネットの活用には慎重になることが賢明である。

 

メディア変化が神学に影響

 

 魚は水を意識しない

 

近年、神学とテクノロジーに関する議論の多くは、どのように文化に根付くかに関連している。クリスチャニティ・トゥデイやThe Gospel Coalitionなどのオンライン・メディアでは、デジタル社会に注目している。

 

学術面においても、信仰生活とテクノロジーと文化の関わりを取り上げた論文や書籍が急増している。文化はますますオンライン上で生まれ、他者に共有され、形作られるため、今後の伝道や神学の研究には、聖書プロジェクトのようなどこにでも存在するコミュニケーション技術を導入することになる。

 

聖書プロジェクトのようなコミュニケーション・プラットフォームが、伝道や神学に与える影響を理解することは重要なことだ。人は近年オンラインで時間を過ごすことが多いが、インターネットが人の態度、信念、働きに与える影響には気づきにくい。魚が水を意識しないように、どれほどインターネットが私たちの生活環境を取り巻いているか気づいていない。

 

この点においてデジタル・テクノロジーは特別新しいものではない。テクノロジーの進歩は常に私たちの費やす時間や活力、意識を社会のあらゆる部分から知らず知らずのうちに変化させてきた。

 

 メディア・エコロジーから考察

 

このような変化がどのように起こり、どこに導き、人々がどのように反応するかを可視化することが、メディア・エコロジーと呼ばれる分野の主な取り組みである。

 

この分野の思想家について知ることで、聖書プロジェクトの働きをより詳しく理解し、解説動画やスマホ用アプリといったデジタル・アプローチが私たちの信仰生活に適切かどうか判断できる。

 

マーシャル・マクルーハン(1911-1980)は、おそらく最も著名なメディア・エコロジストである。1960年代、「メディアはメッセージである」というメディア論を展開し一躍有名になったカナダの学者だ。

 

ローマ・カトリック教徒であったマクルーハンは、西洋の歴史に見られる口承文化が廃れ、その後視覚的なメディアを介する情報伝達に本格的に移行したことを嘆いた。メディアに対する理解や考え方に大きな影響を与えたことから、「ワイアード」誌は彼を同誌の「守護聖人」に選出した。

 

マクルーハンは”Understanding Media”1964の中で、「メディアは、環境を変えることにより、われわれの中に特有の感覚比率を作り出す。われわれの感覚のどのひとつが拡張されても、それは、われわれの考え方、行為の仕方一世界を認知する仕方、を変える。これらの感覚比率が変わる時、人間も変わる」(参考『メディア論:人間の拡張の諸相』みすず書房、1987、43~49頁)と述べている。

 

つまりメディアによって私たちの五感、すなわち「感受性」が変化し、知覚が曲げられてしまうのである。例えば活版印刷の登場により、人は口承的、聴覚的な情報ではなく、視覚的な情報に過度に注目するようになった。(つづく)

 

 記者:イーストテネシー州立大学メディアコミュニケーション学部助教授。メディア・エコロジー学、マルチメディア制作、デジタルリサーチとライティング論を担当する。

※1 “A New Journey Through an Ancient Story,” The Bible Project, https://bibleproject.com/app/

クリスチャン新聞web版掲載記事)