《特集》フォーカス・オン ”その時教会は” 教会の持続可能性③無牧教会の牧師招聘
今年創立40周年を迎える奈良県奈良市にある奈良福音自由教会(小林久実牧師)は、2011年9月に現在の小林牧師が赴任した。日本福音自由教会協議会(福音自由)に属し、礼拝出席25人ほどのこの教会は、09年7月に前任牧師が辞任してからの無牧期間2年1か月を、どのように過ごしたのか。教会運営、牧師招聘の過程について、教会の役員を務める中村俊治さんにその全容を聞き、また、招聘された小林牧師、その間顧問牧師を委嘱された浜岡正年牧師(近江福音自由教会)に、それぞれの立場から話を聞いた。
役員 中村俊治 さん
他教会、牧師との横のつながり
前任の牧師からは、辞任3か月前の4月に、その意向が役員会に伝えられた。総会を終えて新年度の予算や活動計画が決まった直後のことであったが、「牧師の召しに関することなので、私どもがダメだという話ではない。役員も信徒もそれを受け止めました」と、今も役員を務める中村俊治さんは淡々と語る。
牧師の辞任表明を受けて役員会が行ったことは、牧師招聘委員会の立ち上げと、「顧問牧師」の依頼である。顧問牧師とは、制度として明文化はされていないものの、福音自由の教会では広く行われているもので、無牧期間中の教会運営や役員会の霊的指導、また牧師招聘に関するアドバイスと候補となった牧師への具体的な打診を行い、教会との間に立つ牧師である。当時関西地区協議会の会長であった浜岡牧師が顧問牧師として適任と考え、内諾を得た上で6月に臨時総会を開き、そこでの決定を受けて、正式に依頼した。
「牧師招聘に関しては、すぐに決まるとは考えていなかった」と言う中村さんたち役員にとって、当面の問題は毎週の礼拝説教者の手配であった。辞任直後の8月、9月に関しては前任の牧師がほぼ手配してくれていたものの、10月以降は自分たちで行う必要があり、その時依頼した説教者は、大きく三つの関係からのつながりだった。
福音自由の教職者及び信徒説教者、奈宣協(奈良県福音宣教協力会)の教職者、近放伝(近畿福音放送伝道協力会)の教職者。奈宣協は奈良地域の牧師会で、県民クリスマスや講演会などで年に数回教会間の行き来があり、互いに面識があった。近放伝は、直接的には近畿地区の放送伝道を目的とする団体だが、「教会協力による相互成長」という理念のもと、教会間協力を進めるために設立された経緯を持つ。その協力教会の牧師たちに前任の牧師が辞任後の説教依頼をしてくれていたことでつながりが生まれ、一度来た説教者に次の説教者を紹介してもらう形で関係が広がり、依頼が可能になった。
自立した信徒、他との交流が助けに
「およそ2年の無牧期間でしたから、延べ100人以上の方に説教奉仕に来ていただきました。その間説教者が立たなかった礼拝はありません。毎週の『婦人会』も地域の教会の先生が助けてくださいましたし、祈祷会も信徒で行いました。無牧期間中に離れていった人はいません。以前から求道していた3人の方は無牧の期間に受洗しました。信徒の方たちから不平の声などは聞かれませんでしたし、むしろ役員の私たちに『大変ですね』と、いたわりの声をかけてくださいました」
牧師招聘は慎重に検討が重ねられた。基本的に福音自由の教職者から候補を選んだが、それ以外の選択肢も排除はしなかった。他の教会から牧師を招聘するということは、多くの場合その教会が無牧になることを意味する。候補者は顧問牧師からの情報をもとに招聘委員会で話し合い、委員の側から名前をあげる時もまずは顧問牧師と協議した。「この先生はどんな感じでしょうか、というような程度でしたけど」
説教奉仕をしてくれた牧師も候補として検討された。具体的に候補として先方に打診するのは顧問牧師を通じて行い、その返事も顧問牧師を通じてもらった。
一人の候補者に打診し、その返事をもらってから、次の候補者を考えた。4人の候補者に打診したが導かれなかった。打診した上で教会の側から断ったことはない。5人目に打診した小林牧師から受諾の意向を得、臨時総会を経て正式に招聘。無牧開始から2年1か月を経て小林牧師が導かれた。
「顧問牧師の存在は教会として大きかった」と中村さんは言う。「牧師招聘に関する指導、助言だけでなく、聖餐式の執行などでも、教会を支えてくださいました」
「無牧期間の教会の問題として、信徒へのケアということも聞きますが、うちの教会にはいわゆる牧師依存の方はいません。婦人会などは、独自に集会を企画して、外部から講師を招いたりもします。福音自由では、万人祭司との立場で、牧師と信徒に立場の上下はないということが浸透しているからかもしれません」
「修養会や新年聖会など、教会間の交流は活発にあります。それは、福音自由内だけでなく、奈宣教など地域の教会ともつながりが深い。近放伝とのつながりは前任の牧師が残していってくれたもので感謝でした。自立した信徒と他教会との交流が、無牧期間の教会運営を助け、混乱なくその期間を乗り越え、牧師招聘ができたのではないかと思います」
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つながることが自立を支える
教会が無牧の期間もしくは状態をいかに過ごすかは、牧師がいない以上、信徒が担わなければならないのは当然である。その時、牧師に依存することのない、信徒の自立した信仰が問われてくる。それと同時に、信徒の群れが教会であり、個々の信徒が教会につながっていることが求められるように、やはり教会も孤立することなく、他の教会とつながっていくことが求められているのだろう。
そのつながりとは、私たちが「公同の教会」を告白する時、キリストをかしらとして霊的につながるとともに、目に見える生身の教会として実際に交わりを持つことであり、そのつながりがそれぞれの教会の自立をも支えている。奈良福音自由教会のケースは、そのことを私たちに見せてくれている。他の教会とのつながりを持たず、いわば孤立した状態で「自立」している教会の姿を思い描くのは困難だ。
教団教派に属するか単立であるかにかかわらず、各教会の置かれた状況は当然個々に異なり、その歴史も育んで来た文化も一様ではない。それを考えるなら、教会が、単に所属する教団やグループにとどまらず、広くつながっていくことは決して容易なことではないが、それでも、教勢の衰退、教職者の減少と、さまざまにその危機が語られる今だからこそ、教会が存続しその使命を果たしていくためには必須のことであると思われる。
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