「♪♪日々の糧を 与えたもう♪♪…」。子どもたちの元気な賛美と、お祈りの声が聞こえてきた。ここは茨城県つくば市にある茨城YMCA東新井センター「わいわい児童クラブ」。学童保育に集う子どもたちが、おやつの時間になったようだ。「子ども子育てはYMCA」を掲げ、設立当初から地域の子どもたち、親たち、家庭とともに、そのかたわらを走り続けてきた働きは今年30周年を迎えた。隣人に寄り添い、その必要に応えようとして少しずつ広がってきた活動は、さらに社会福祉法人取得、新保育園建設と、新たな一歩を踏み出そうとしている。

聖書の価値観で家庭の必要に応え

認定特定非営利活動法人(NPO)茨城YMCAは現在、つくば市、牛久市を中心に、東新井センター、みどりのセンター、牛久センター、大曽根児童館の4か所を拠点に活動を行っている。幼稚園、保育園などの幼児教育、放課後の学童保育を行う「わいわい児童クラブ」、発達障害のある子たちの放課後等デイサービス「ひかりの子」、夏冬のキャンプ、スポーツクラス、各種習い事クラスなど、その働きは多岐にわたるが、いずれも未来を創る子どもたちに向き合うものだ。総主事の宮田康男さん、副総主事の伊藤信彦さんに話を聞いた。

―今も大勢の子どもたちの声が聞こえますが、人数はどれくらいですか。
伊藤 「児童クラブ」の在籍は、ここ東新井で150、牛久で40、みどりので100、大曽根で120人くらいでしょうか。夜は9時まで預かるのも魅力でしょう。ご両親ともエッセンシャルワーカーだったり、一人親家庭だったり、遅くまで預かってほしい方は少なくないです。
宮田 2004年に「アフタースクール」という名前で始めた時は人数もそれほど多くはなく、活動も火・木・金の週3日だけでした。しかし、夕方まで子どもを預けておいたほうが1日動けてよいと考える人たちは多く、翌年には週5日になり、夏休みは全期間預けたいとか、徐々に体裁が整ってきました。つくば市の教育委員会に話に行った時も、最初は「どうぞご自由に」みたいな感じでしたが、人数が増えるにしたがって注目され、2010年には市の業務委託になり、「わいわい児童クラブ」として認定されました。業務料も入るようになり、経営的には安定しました。14年にはみどりのセンターで、15年には牛久センターでも始めました。18年には市の大曽根児童館の指定管理者になりましたので、そちらでも受け入れています。

サマースクール


スキーキャンプ

―先ほど食前の感謝の「お祈り」が聞こえましたが。
伊藤 児童クラブだけでなく保育園でもやっています。「お祈り」をするかどうかよりも、どんなプログラムをするにしても、聖書の価値観に立って、それを伝えていくのがYMCAの重要な役割です。保育理念にしても、他の保育所と違うところは、はっきりわかるようにして、入園してもらっています。児童クラブも、各学校から連れ帰って遊ぶ前には宿題もさせます。親が迎えに来るまで怪我をさせずに遊ばせておくだけなら、YMCAがやる必要はないでしょう。

 

「先生」でなく 一人の人間

宮田 YMCAでは、子どもはスタッフを、みんなニックネームで呼ぶのですが、大曽根児童館の指定管理を受けた時、市の人からは「子どもの前では先生の立場で」と言われて、最初は理解されませんでした。でも私たちは、みんな一人の人間という立場で向き合っています。子どもたちには、先生としてではなく、一人の大人のモデルとして見てほしいんです。

―ちなみに、宮田さんのニックネームは?
宮田 「ソーリ」です。「総理大臣」ではなく、「アイムソーリー」の。私はすぐに「ごめんね」と言うらしいんです。20年くらい前、私がここに来てまもなく、佐藤君という子が名付けてくれました。よく見てますね。

―スタッフは何人くらいいますか。全員が同じ理念を共有するということは、なかなか大変かと思いますが。
伊藤 正職員が50人、パートタイム職員や英語など習い事クラスの専任講師が100人、合わせて150人くらいです。全体でクリスチャンは4割いますが、これは全国34のYMCAの中で一番高い割合です。
確かに理念の共有は難しいです。特に専門職のスタッフなどは、自分の経験からすでに持っているものもありますし、そこは乗り越えていく必要がある。でもボランティアリーダーなどは、大学生が多いですが、先輩が後輩を指導していく中で、YMCAらしさが受け継がれていっています。30周年の記念講演会で証しをした大澤君という職員は、そうやって信仰にまで導かれましたね。

 

職員研修で「聖書をもっと学びたい」と


*大澤篤人(日本YMCA同盟)
私は、大学1年の時に子どもたちのキャンプに誘われ、茨城YMCAと関わるようになり、YMCAが好きになり職員になりました。でも信仰を持つことはありませんでした。キリスト教は学ばなければ、教会は通わなければいけないものでした。働いていると洗礼を受ける人もいる、自分もいずれ受けるだろう、でも信仰心もないままに洗礼を受けていいのか、と不安に思っていました。
2014年に3か月間の職員研修に行きました。研修内容の4分の1はキリスト教理解、聖書の話で、それくらいYMCAには必要なことなのだと思いました。研修を終えて、以前は「学ばなければ、行かなければ」だったのが、「聖書をもっと学びたい、教会に行きたい」と変えられました。こんな乏しい信仰心で洗礼を受けていいものかという不安は、こんな私でも信じれば神様は救ってくださるという感謝に変えられました。
YMCAでは、リーダーとして子どもたちの前に出ると、信仰がなくても、宣教の場に立たされるようなところがあります。私はそういう環境にいたおかげで神様を知ることができました。本当に恵みだと思います。YMCAの働きを通して、地域の中でこれからも神様の働きを広げていきたいと願っています。

 

神を知らない人へ 教会の協力を

宮田 クリスチャンの職員はもっと増えてほしいです。それは教会との協力関係をより強くすることになりますから。2021年に東京基督教大学(TCU)と包括的連携協定を結んだのもそのためです。人的な交流を行い、宣教・福祉・教育などの面で協力していく。これまで二人の卒業生が職員として働いてくれています。
この秋には、関東地区のYMCAが合同で、TCUで就職相談会を開くことも決まりました。6月の記念講演会で山口陽一先生が講演してくださったことも感謝でした。

 

先人の「心の願い」は〝C〟にある


*山口陽一(TCU学長代理・当時)
「主に信頼し善を行え……主を自らの喜びとせよ」(詩篇37篇3、4節)。これこそがYMCAの「心の願い」。1844年、ロンドンで始まったYMCAがキリスト教社会における働きであったのに対し、1880年に始まった日本のYMCAは異教社会での働きであり、それは、小崎広道、植村正久など、20歳代の若い牧師らの「心の願い」
によって始まった。日本のキリスト教史はそのままYMCAの歴史と重なる。YMCAは〝C〟(キリスト)を意識しないと、その「心の願い」は失われる。茨城YMCAは、子どもたちへの働きを中心にその〝C〟を強めようとしている。茨城県キリスト教史における未来の希望も、日本のYMCAの未来も、ここにある。


差別について考える「ピンクシャツデー」

―教会との協力は今までもあったのかと思いますが。
宮田 そもそも茨城YMCAの歴史は、1975年、日本基督教団の筑波キリスト教活動委員会(TCAC)発足にまで遡ります。84年にTCAC会館が完成し、そのホールを借りて茨城YMCAの先行プログラムは始まりました。94年の設立時には、101人の教会関係者が維持会員として登録してくださり、その会費によって今も私たちの働きは支えられ続けています。福音派の教会からの協力もTCUだけではありません。理事の一人である恵泉キリスト教会つくばグレースチャペルの佐久間先生は、「YMCAは、言葉で語らなくても、目に見える形で福音を表している。宣教の働きをしている」と励ましてくださいます。

―さらに教会の協力を必要としているということですね。
宮田 まだまだ私たちに見えていない人がいるし、困っている人がいても気づかないでいることがたくさんあるでしょうから。2年前から土曜日にモンゴル語の補習校を始めました。きっかけは、日本語教室に通ってきていた外国人の中にモンゴルの女性がいて、つくばにはモンゴル人がたくさんいることを教えてくれたことです。彼らの子どもたちはモンゴル語やその文化を忘れがちで、そのため親子のコミュニケーションに困難を抱えている。子どもはまた学校で、マイノリティー故の困難を抱えている。補習校はモンゴル語を学び、馬頭琴など文化を学ぶところ。自分のアイデンティティーを確認し、居場所ともなる。保護者にとっても親睦の場となっています。それ以前からモンゴルの子たちを目にしていたはずですが、私には見えていなかったんですね。
伊藤 その補習校が駐日モンゴル大使の知るところとなり、昨年、宮田は大使から感謝状を贈られました。
宮田 私たちはもっと気を配らなければいけない。そうすると私たちの働きも広がっていきます。教会の協力ももっと必要になります。働きのほとんどは、神様を知らない人に対してです。教会もYMCAを通して、より社会との接点が広がるのではないでしょうか。
伊藤 来年の4月からは、社会福祉法人茨城YMCA福祉会が運営する「みどりのつぼみ保育園」がみどりのセンターにオープンします。新しい施設が建ちます。0〜5歳児まで定員96名です。職員として働いてくれる保育士の方が必要です。
宮田 それに伴って私は総主事を退き、伊藤が新総主事を引き継ぐことになります。
伊藤 教会の協力が必要です。お祈りも具体的な支援もお願いします。

企画制作・クリスチャン新聞

2024年09月15日号 04面掲載記事)