本作の脚本を共同で執筆した脚本家ハンナ・チャンさん(左)は、同じ教会の信徒。二人でタッグを組んだ映画は6作目になる。
本作の脚本を共同で執筆した脚本家ハンナ・チャンさん(左)は、同じ教会の信徒。二人でタッグを組んだ映画は6作目になる。

香港映画といえば、昔は70年代のブルース・リーや80年代のジャッキー・チェンらの系統をひくアクションものや近年ではリョン・ロクマン、サニー・ルク監督らの骨太で緻密な警察ドラマなどをイメージしやすい。一方で、老人介護問題をしっとりした映像で描いたアン・ホイ監督の「桃姐」(邦題「桃[タオ]さんのしあわせ」)のようなヒューマンドラマにも秀作を生み出しているが、昨年(2015年)の香港映画興収ランキング1位を獲得した映画「小さな園の大きな奇跡」も、サスペンス・アクションとは異なる香港郊外にある閉園の危機に瀕した小さな幼稚園の園児と園長先生の心の絆を描いた物語。11月5日(土)からの全国公開を前にして、脚本家ハンナ・チャンさんとともに来日したエイドリアン・クワン監督に、実在する幼稚園と園長の物語を映画化した本作が、香港の人々に高く評価され受け入れられた要因などについて話を聞いた。
詳しい映画紹介は下記URLへ↓ ↓ ↓
クリスチャン新聞.com/?p=12586

小さな幼稚園で起きた奇跡的な実話が
香港の人々の心を動かし教育を変えた

2015年、最も香港の人々の心を動かした映画「小さな園の大きな奇跡」(主演:ミリアム・ヨン)は、香港郊外の元朗(ユンロン)に実在する小さな幼稚園の5人の園児たちと赴任した園長先生による奇跡的な復興物語がモチーフになっている。
クワン監督が、そのユンコン幼稚園の存在を知ったのは2009年のこと。新聞やTV番組などで、資金難のため教師も園長も退職してしまい、行き場所がなく残った5人の園児のうち一人でも減れば来年度は閉園する危機に瀕しているという。その後、間もなく月給4,500香港ドル(約6万円。園長の平均給与の6分の1~8分の1)という薄給ながらルイ園長が赴任し、園長・教師・用務員の職務すべてを兼務して園児たちの教育に尽力している姿が報じられた。
クワン監督は、「たった5人の園児たちのためにルイ先生がどうしてそこまで尽くすことができるのだろうと思っていました。だが、私自身、貧困家庭や障害者をサポートするチャリティ団体に参加してみて、彼女の“自己を犠牲にする”気持ちが分かったように思いました。その後、ルイ園長と直接お会いして、彼女の話にもとても感動し、どうしても映画にしなくてはと思いました」。

教育の原点は教え子の人生に関わり
愛と夢を持たせて個性を引き出すこと

本作で描かれたルイ園長は、実在するルイ園長同様、香港の有名幼稚園でのエリート教育についていけない子どもたちを見て心が疲れて退職した人。だが、閉園の危機にある小さな幼稚園で園児たちと接するうちに、「いい先生ななること」を自分の夢として抱いていこうと励まされ、頑張っていく。

(C)2015 Universe Entertainment Limited All Rights Reserved
主役のルイ園長を演じたのはミリアム・ヨン。 健気な園児役の子たちは、どうしようもなく可愛い子たちばかり。 (C)2015 Universe Entertainment Limited All Rights Reserved

本作は、富裕層の都市・香港でも大ヒットした。その反響について聞くとクワン監督は、「香港の人たちは、この映画のような恵まれない子どもたちが近くにいることに気づかなかったと言っていました。そして、どうにかしなければいけないという思いを持ってくださった。また、香港の教育界が大きく変わりました。多くの園長・校長先生から『成績だけを重視するのではなくて、夢を持つこと、人を愛するという教育者の初心に初心に帰ることができた』『教育への情熱を取り戻させてくれて、ありがとう』という内容のお手紙をいただきました」という。

また、ストーリーの中では、ルイ園長と貧困家庭の園児たちが公園で障害者の人たちと出会うシークエンスがある。そのシーンの重要性について共同脚本を執筆したハンナさんは、「あの公園での出会いには、いくら貧しくても、どのような障害を持っていても、命を謳歌できるというだけでとても幸せではないだろうかという発見があります。貧しかろうと、障害があろうとも腐らずに文句も言わないで、自分の命の幸福を味わいましょう!、感謝しましょう!ということを伝えたい」と語り、クワン監督の思いをフォローする。

クワン監督の愛称は“ゴスペル監督”

クワン監督は、香港映画界では“ゴスペル監督”の愛称で呼ばれているという。プロテスタントのクリスチャンに導かれた経緯を尋ねると、「結構、小さい時からのことになりますよ」と笑う。

映画「小さな園の大きな奇跡」:監督:エイドリアン・クワン 2015年/香港=中国/中国語(広東語)/112分/映倫:G/原題:五個小孩的校長 英題:LITTLE BIG MASTER 配給:武蔵野エンタテインメント 2016年11月5日(土)より新宿武蔵野館リニューアル・オープニング・ロードショーほか全国順次公開。 オフィシャルサイトURL http://little-big-movie.com
アクション映画スターのルイス・クーが、ルイ園長の夫ドン役を好演している (C)2015 Universe Entertainment Limited All Rights Reserved

「本作の園児たちと同じくらいのころですが、祖父がよく日の出を見る散歩に連れて行ってくれました。私は、その美しい光景に感動して、その美しさを創ったのは誰だろう。神ではないだろうか、と思っていました」。その漠然とした思いにはっきり答えを見いだせたのは、「小学生の時に姉が『いっしょに教会に行かない』と誘われてです。そこで初めて福音に出会いました。そして、美しい日の出を創られたのは神だという回答を得て、もっとキリスト教のことを知りたいという思いを熱くしました」。

クワン監督は、カナダで映画の勉強をしていたが、「香港に帰ってきて、ジャッキー・チェンの映画『Who am I』(1999年作品)に関わっていたころ、母親ががんを発症しましたが、自分は母に何の手助けもしてあげられない悲しさに直面しました。ある時、教会の友人が20分程度のキリスト教のドキュメンタリー映画を母に貸してくれました。私は、その作品の出来上がりのひどさを母に力説しましたが、母はその作品を見終わった後、笑顔が戻っていてとても様子が変わっていました。その作品から何かを得たようでした。たぶん神様の愛ではないかと思います。でも、私は作品のひどさを言い続けていましたが、ふと聖霊から「文句を言うな」と呼びかけられているように感じました。「文句を言う前に自分で作ったらどうなんだ」とね。(笑)

自分は映画監督としてどのような作品を作りたいのか考え続けていたテーマだが、その時に「クリスチャン監督として、喜びと希望と愛に溢れた映画を作りたい、と心に決めました。観客は、映画館に入るとき何らかの問題を背負っている人が多いと思います。でも、映画を見終わった後には、笑顔を解放感と喜びに満ち溢れるような映画を作りたい。それが私のミッション(使命)だと思っています」と、映画への思いを語ってくれた。 【遠山清一

映画「小さな園の大きな奇跡」】 監督:エイドリアン・クワン 2015年/香港=中国/中国語(広東語)/112分/映倫:G/原題:五個小孩的校長 英題:LITTLE BIG MASTER 配給:武蔵野エンタテインメント 2016年11月5日(土)より新宿武蔵野館リニューアル・オープニング・ロードショーほか全国順次公開。
オフィシャルサイトURL http://little-big-movie.com