©2010 Pierre Grise Production
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少し毒気はあってもシニカルではなく、ユーモアのある詩的な映像に社会風刺を味付けするイオセリアーニ監督。旧ソ連時代は、作品を上映禁止にされることが多く、ソ連とトルコに挟まれた母国グルジアからフランスへ1979年に移住した。そのような実人生を彷彿とさせられるこの最新作では、こよなく映画を愛し、心の自由を失わずに飄々と生きていく人生賛歌が響いてくる。

ニコとルカスと女性のバルバラの3人は、子どものころから教会の聖人画を盗んでは司祭にいたずらをするような幼なじみ。成長してニコは映画監督、バルバラは検察官の職に就いている。廃墟の一室に集まった3人は、ニコの新作映画を試写して意見を交わす。森の中で銃殺刑を執行しているシーン。「カットしないと面倒なことになる」と率直に述べるバルバラ。「いや。カットしない」と自信を持って答えるニコ。3人は意志を確かめ合ったかのように握手する。

案の定、公開上映禁止を告げられたニコ。帰宅した後、ニコとルカスとバルバラたちは、「仕方ない。乾杯!」とグラスを傾ける。

そんな折、フランスから大使がグルジアに来た。ニコは通訳するバルバラの手引きで大使と面談できたが、その行動は監視されていた。投獄され痛めつけられたニコに、高官は「外国へ行け」とそれとなく忠告する。

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祖父は、旧友のミハエルを身元引受人として紹介し、ニコをフランスへ送り出す。伝書鳩一羽を入れた鳥かごと楽器を持ってパリへ旅立つニコ。大使の取り計らいで、パリでの監視を緩められ、映画プロデューサーたちにもつながりを持てたニコだが、「映画もビジネスだ」と言い、いろいろ口出ししてくるプロデューサーたちの下で、ニコは思い描く映画を自由につくることができるのだろうか。

人には誰しも自由を求める心が与えられている。その心は、家族や幼なじみ、そして街の空気とそこに住む人々との触れ合いから育まれていく。フランスから故郷に帰ったニコ。そこで様々な制約を受けながらも口笛吹きながら想いを作品にしていくのか。それとも、また新たな世界へ自由を求めていくのか。なんとも意味深なラストシーンが、「あなたは?」と観るものの心に印象深く問いかけてくる。  【遠山清一】

監督・脚本:オタール・イオセリアーニ 2010年/フランス=グルジア/126分/原題:Chantrapas 配給:ビターズ・エンド 2月18日(土)より岩波ホールほか全国順次公開。

公式サイト:http://bitters.co.jp/kisha/