Movie「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」――3D映像が実感させるピナの魂
舞踊と演劇を融合させた舞台芸術を創出し「タンツテアター」と自ら命名したドイツの舞踊家・振付家ピナ・バウシュ(1940/7/27―2009/6/30)。彼女の作品では、ダンサーたちは踊るだけでなく、時には台詞を語り、歌いもする。激しいアクションから突然泣き叫び、笑い転げることさえある。それらの作品のシーンを観客として客席に、またダンサーたちと共に舞台や町中に出て演じているような身体の感覚を覚えさせられる。3D映像でなければ、観ていて自分の身体が疾走し、浮遊しているような錯覚に陥っただろうか。「踊りなさい。自らを見失わないように」と教えたピナの魂が、ダンサーたちの踊りをとおして観るものを鼓舞する。
ベンダース監督は、随分前からピナと共同で映画をつくる企画をすすめていたが、タンツテアター作品を映画化する手法に悩んでいたという。そして2007年に3Dでの映画化に見通しをつけたのだが、ピナの急逝。一時は映画化を諦めかけたが、作品の完成を待ち望む声がベンダース監督の背中を押した。
クラシックバレーの研さんを積んでいるヴッパタール舞踊団のダンサーたちが、コンテンポラリーダンスの舞台セットで、街なかで、また原野へ出て行き、ピナが選んでいた「春の祭典」(1975年)、「カフェ・ミューラー」(’78年)、「コンタクトホーフ」(’78、2000、’08年)、「フルムーン」(’06年)4作品の様々なシーンを脈絡なく踊り、ピナの魂を演じていく。
近年は、賛美歌とタンバリンダンスで聖書の神を賛美するムーブメントが浸透しつつあるキリスト教界。喜び踊りなさいを与えられている身体で表現し、神のものへと証ししていく。映画では、各国から集まっているヴッパタール舞踊団のダンサーが、ピナから受けたことについて語っている。ダンサーの一人は「愛とは」と投げかけられ、それを表現する。作品のシーンとは別に、ダンサー各自の個性的な踊りも演じられていて、その一つひとつがピナの独自な世界にレスポンスしている。
踊りを愛する人たちを愛したピナ。この映画から受ける感動と刺激は、身体を使って踊ることの喜びと熱情を揺さぶる。それは、観るものにも心の奥底に、ある躍動を呼び起させる。
昨年の第24回東京国際映画祭で特別招待作品として上映され、舞台に立ったベンダース監督は、「これから皆さんを、東京からドイツの小さな町(ヴッパタール)……ピナが40年来活動した町へと連れて行きます」と挨拶した。その招きに素直に応じてみたい。 【遠山清一】
監督:ビム・ベンダース 2011年/ドイツ=フランス=イギリス/104分 3D上映/原題:Pina 3D 配給:ギャガ 2012年2月25日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国順次(3D)公開。
公式サイト:http://pina.gaga.ne.jp