映画「いとしきエブリデイ」――塀の中にいる父親、それでも家族の絆を撚り合せる日々
最近、公園のベンチに置き去りにされた乳児が保護されたニュースが流れた。育児放棄、幼児虐待…、こうしたニュースを見聞きすると、言いようのない胸の痛みを覚えさせられる。
そこまで追い詰められる状況でなくとも、子どもは親に全力で頼り、自分の全存在を親に委ねてくる。親が子どもと一緒に希望を持ち続ければ、家族の居場所は守り続けていけるのではないか。そのような細やかな光が、美しい音楽と英国ノーフォークの町と田園風景のなかで見えてくる作品だ。凡庸な日々だが、家族一人ひとりの成長を見つめることで、一日がなんとも大切なときであり、宝石のようにキラキラしているものかと味わい深く気づかせられる。
朝4時を知らせる目ざまし時計。カテリーナ(3歳)、ショーン(4歳)、ロバート(6歳)、ステファニー(8歳)たち4人が、母親カレン(シャーリー・ヘンダーソン)に起こされる。父親のイアン(ジョン・シム)が収監されているロンドンの刑務所に行くための早起きだ。この日は、娘たち2人を隣家に預けてロバートとショーンが行く番だ。面会室では、父イアンにショーンが走り寄って抱きつく。兄のロバートは、「お前が家長だぞ」とイアンに言われて少し緊張する。
イアンが何の罪で服役しているのか、何年の刑期なのか、そうした事柄はほとんど語られない。ただ、母カレンは4人の子どもたちを育てながらパブで働いていること。毎朝、子どもたちが歯磨きし、あわただしく朝食を摂って幼稚園や学校へ行く。そこでの子どもたちの様子など、日常の生活と普通の会話が撮られて行く。
子どもたちは、少し成長した。カレンは、子どもたちをイアンの義母に預けて一人でロンドンへ面会に行った。帰ってみるとロバートとショーンの姿が見えない。「男の子は元気に遊ぶものよ」と言い、気に掛けていない義母。カレンが夕暮れのなかを捜しまわると、ショーンがとぼとぼと歩いていた。ロバートは猟銃を持って森の中を歩いていると言って泣き始める。夜になって、仕留められたうさぎを持ったロバートが帰ってきた。
イアンが、日帰りの仮出所でノーフォークの家に戻ってきた。久しぶりに自由気ままに家族の憩いの時が味わえる。公園でいっしょに遊び、イアンとカレンは少しの時間だけ二人きりのデートもできた。だが、その間にロバートは姉弟たちから離れ、一人で町の中を歩いていく。
大きな事件は起こらない。坦々とした5年の日々が流れていく。事件らしいことと言えば、日帰りの仮出所の折、服役囚から無理強いされたイアンが、少量の薬物を持ち帰ったのが発覚し刑務所を移動させられたこと。普段は泣き虫のショーンが、学校で父親の悪口を言われ同級生とケンカし、止めに入ったロバートもいっしょに先生から注意されたこと。なんとも当たり前に起こりそうなことだ。
それでも、必死に子どもたちを育てながら、夜遅くまでパブで働くカレンにとっては、たまらなく不安になり、心の不安を支えてくれる存在が必要と感じられ、揺さぶられることだろう。そのような心象風景が、絵画的なシーンとマイケル・ナイマンの音楽でポエティックに描かれていく。
4人の子どもたちの成長に併せながら、5年間かけて撮られた作品。誰かが長く不在であっても、希望を持ち続けながら日々の’時’を紡ぐように見つめていく。そのことの大切さが、子どもたちの笑顔とともに想い起される。 【遠山清一】
監督:マイケル・ウィンターボトム 2012年/イギリス/90分/映倫:G/原題:Everyday 配給:クレストインターナショナル 2013年11月9日(土)よりニューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト:http://everyday-cinema.com
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