「おじいちゃんの里帰り」――家族と故郷そして移民した国との心つなぐロードムービー
50年前にトルコからドイツに出稼ぎ移民としてやってきたおじいちゃんのフセイン・イルマズ(ヴェダット・エリンチン)。なんとも穏やかで人が良さそうな風貌。だが、ムスリム圏トルコからの移民らしく、家族には威厳をもち、頑固なところもある。そのフセインおじいちゃんが、唐突にもトルコの故郷の村に家を買ったので子どもから孫まで10人家族全員で見に行こうと言い出した。マイクロバスを仕立て半世紀ぶりの里帰り、その旅路で家族の心と思いが解きほぐされていくロードムービー。
とても気立てのいいフセインおじいちゃんだ。半世紀前に妻ファトマ(リライ・ヒューザー)と子どもたちを故郷に残してドイツに来たときも、手続する事務所で後の人に順番を譲ったためフセインは100万1人目のトルコ移民に登録され、100万人目の祝福を逃した。それでも気落ちなどせず、200万人目に向けての1人目で満足する。
後から呼び寄せた妻と子どもたち。子どもたちは、それぞれ結婚し2人の孫にも恵まれた。ドイツで生まれた三男はドイツ人女性と結婚し、彼らの男の子のチェンク(ラファエル・コスーリ)は6歳。ドイツとサッカーの試合の話題で学校の友達と大ゲンカになり「自分はドイツ人なのか!、トルコ人なのか!」とアイデンティティに悩み始めている。
長女レイラの娘チャナン(アイリン・テゼル)は大学生。作品のなかでは母から聞かされてきたのだろう、おじいちゃんとおばあちゃんはじめ家族の仲の良し悪しや人柄などを語っていく。だが、チャナン自身も、母や家族には内緒でイギリス人の恋人がおり、彼の子どもを妊娠していることが分かり大いに悩んでいる。
家族一人ひとりが、胸に何らかの思い煩いを抱えている。バスを運転して旅しながら、おじいちゃんは子どもと孫たちのそんな心の機微を捉え、解きほぐしていく。そして、故郷に着き、買いとった家のリフォームに向かって家族みんなを動かしていく。
現在のドイツでは、少子高齢化のなかでの人口減少問題とも関連して、トルコ系およびムスリム圏移民の受け入れ問題が社会問題として議論されている。そういう状況の中で、トルコ系ドイツ人二世のヤセミン・サムデレリ監督と共同脚本を書いたネスリン・サムデレリの姉妹は、家族が生きていくとはどういうことか、故郷とは、国とはを見据えながらユーモラスに温かい目で国と移民の問題をも描いている。移民にとって生活と文化の違いの苦労や宗教間の違い。議論を生む大上段の手法ではなく、互いに苦労をどう受け止め’人間同士として’どうか向き合えるのか。日本にも有意義なメッセージが伝わってくる。 【遠山清一】
監督:ヤセミン・サムデレリ 2011年/ドイツ/ドイツ語・トルコ語/101分/原題:Almanya – Willkommen in Deutschland 英題:Almanya – Welcome to Germany 配給:パンドラ 2013年11月30日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト:http://ojii-chan.com
Facebook:https://www.facebook.com/ojiinosato?fref=ts
2011年第61回ドイツアカデミー賞銀賞・最優秀脚本賞受賞、第47回シカゴ国際映画祭観客賞、第57回ドイツ映画批評家協会賞最優秀新人監督賞・最優秀脚本賞、第61回ミュンヘン映画祭最優秀子役賞(ラファエル・コスーリ)、第16回ニューヨークStony Brook映画祭特別賞、第35回ポートランド国際映画祭最優秀作品賞受賞作品。第61回ベルリン国際映画祭出品作品。