©2012 TWENTIETH CENTURY FOX
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日本では、障害者の性的欲求の問題についてはまだタブー視され、真面目には向き合えていないテーマの一つと言えるだろう。本作は、実在した重度身体障害をもつ詩人でジャーナリストのマーク・オブライエン(1949.7.31-1999.7.4)の手記を基にこのテーマと向き合っている。テーマ性と’セックス代行者’(セックス・サロゲータ)の描写があるためか、映倫区分はR18+指定を受けている。未成年者が隠れて観るような作品とは大違いで、性という人間が存在する根源的な生命観や充実感にウィットを効かせながら真摯に描いている作品。こういう作品こそ、親子で感想を述べ合えるような判断がなされなかったものかと思わされる。

マーク(ジョン・ホークス)は、6歳の時にポリオに罹り首から下が動かせない身体障害者。それでも大学を卒業し、ジャーナリスト、詩人として自活している。だが、自力では呼吸できないため’鉄の肺’と呼ばれる身体を覆う機密タンク型人工呼吸器の中で過ごす。外出時は携帯の呼吸器を使って4時間ほどの制限がある。口に加えた棒で打つタイプライターの移動や身の周り世話のためには、どうしても介護者が必要だ。

そんなマークに、障害者のセックスについて取材する仕事がきた。マーク自身、介護者の女性に魅かれてプロポーズし去って行かれた経験がある。身体は動かないが皮膚感覚も男性としても機能している。マーク自身にとっては興味を超えたテーマでもある。取材活動を通して、障害者とのセックスをカウンセリングしながら対処するセックス・サロゲータの存在を知り関心を持つ。

カトリック信徒のマークは、婚外性交渉が罪に当たることは十分理解している。だが、人生を前向きに生きたいと願い、どんなことにもチャレンジしてきたマーク。自分が生きていることとセックスを経験したいという欲求は理性を超えて抑えがたく、教会でブレンダン神父(ウィリアム・H・メイシー)に幾度か相談する。マークの真剣な問いかけを受けてきた神父は、「主イエスもお赦しになるのではないだろうか」と許容を示す。

©2012 TWENTIETH CENTURY FOX
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セラピストを介した手続きを経て、やがてマークの前にセックス・サロゲータのシェリル(ヘレン・ハント)が訪ねてきた。シェリルは、売春婦とは違うこと6回までのセクションに限定されていることを明確に告げ、セラピストとしてマークの介助を始める。

オープニングのシーンでマーク・オブライエン本人が、動力付介護用ストレッチャーを操作して大学の教室へ向かう当時のニュースフィルムが流れる。マークが、生きることにあきらめていないその姿に感動を覚える。人は助け手が必要な存在。それはアダムからエバがつくられた時の聖書の言葉でもある。聖書の神は、男と女が結婚することを祝福している。’婚外性交渉’の現実にさまざまな意見があることだろう。映画として、身障者とセラピストの関係を超えた微妙な心の揺らぎも描かれているが、’生きることとセックス’は根源的で真面目な男女の関係であるという視点は終始外れていない。ジョン・ホークス、ヘレン・ハントらのユーモアとペーソスを含んだ演技にも惹きつけられていく。 【遠山清一】

監督:脚本:ベン・リューイン 2011年/アメリカ/95分/映倫:R18+/原題:The Sessions 配給:20世紀フォックス映画 2013年12月6日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開。
Facebook:https://www.facebook.com/FoxSearchlightJP

2013年第26回東京国際映画祭特別招待作品、第86回アカデミー賞助演女優賞(ヘレン・ハント)ノミネート、第71回ゴールデングローブ賞主演男優賞(ジョン・ホークス)・助演女優賞ノミネート作品、クロトゥルーディス賞主演男優賞受賞作品。2012年サンダンス映画祭審査員特別賞・観客賞(旧題’The Surrogate’にて出品)、ハリウッド映画祭ブレイクスルー男優賞(ジョン・ホークス)、サン・セバスティアン国際映画祭観客賞受賞作品。