©Next Goal Wins Limited.

得点0-失点31。シーズンのチーム得失点データではない。サッカー2001年ワールドカップ第一次予選でアメリカ領サモア代表チームが、オーストラリアで喫した敗戦記録だ。アメリカ領サモアは、その後の10年間、公式戦でも引き分けさえない無得点全敗のままワールドカップブラジル大会の第一次予選に臨もうとしていた。このサッカー史に残る世界最弱代表チームが、どのように予選を戦ったのか。まさにゼロ続きからの立て直しの選手たち、人生は不名誉さとマイナスからの出発であっても投げ捨てずに進むことで、大きなものをつかめる可能性を持っていることを教えてくれるドキュメントだ。

オープニングのシーンは、31失点で敗戦した試合のゴールシーンのラッシュ。オセアニアサッカー連盟に加盟する代表チームだが、選手たちは全員アマチュアだ。チームを率いてきたラリーもボランティア監督だ。アメリカ領サモアのサッカー協会は、アメリカに監督の派遣支援を依頼した。応募してやってきたのはオランダ人のトーマス・ロンゲン監督。アメリカのリーグ所属チームでの経験を持つプロだ。

チームの選手たちはユニークだ。31失点の負い目を心に持ちながらも10年間、次こそはと試合に挑み見続けてきたゴールキーパーのニッキー・サラプ。サモアには男性でも女性でもない“第3の性”を容認する文化がある。ジャイ・サエルアは第三の性であることを公にしている。ロンゲン監督は、技術レベルの低いことは承知の上だが、90分はおろか45分ハーフさえ体力の持たない選手が6-7人いるのには愕然とする。
だが、選手たちはめげない。練習の前後には円陣を組んで神に祈り、ミーティングでも祈る。日曜日には教会に行き礼拝を守る。10年間1点も取れず負け続けても、変わらない信仰心と不屈の精神。2009年のサモア沖地震、選手たちは津波が去った数時間後に荒れたグランド整備や流された用具などを探し歩いた。

サモアの若者たちの多くが、米軍に入隊してアメリカへ行く。ロンゲン監督は、そんな彼らの中からフォワードのラミン・オットとディフェンダーのロールストンの2人を故郷サモアの代表選手にスカウトし態勢を整える。そして、予選が始まる前夜。ロンゲン監督と妻ゲイルは、交通事故で亡くした18歳の娘がいたことを選手たちに話し始める。「いま生きているということは、すべてが可能だということ。だから今を慈しめ」と。

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アメリカ領サモアと言えば、大相撲の横綱になった武蔵丸の出身地。あの人懐こいキャラクターが彷彿としてくる選手たち。方やプロの世界でサッカーをプレイし、指導してきたロンゲン監督。文化の違いは、よく衝突し頑固な監督をいらだたせる。だが、監督は今の自分とは異なる、選手たちとサッカー協会のサッカーに対する情熱と愛情の深さを実感していく。それは、このドキュメンタリーを見ているものにも強く伝わってくる。

邦題は「ネクスト・ゴール!」だが、原題は「Next Goal Wins」。子どもたちが、学校で休み時間が終わる寸前に「Next Goal Wins」と叫ぶと、負けていたチームがゴールすればそのゲームは勝ちになることに由来している。たとい負けていても、そんな爽快感と“もうひと頑張り”への力を与えてくれる’実話’だ。 【遠山清一】

監督:マイク・ブレット、スティーブ・ジェイミソン 2013年/イギリス/98分/原題:Next Goal Wins 配給:アスミック・エース 2014年5月17日(土)より全国順次ロードショー。
公式サイト:http://nextgoal.asmik-ace.co.jp
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