映画「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」――人種を超えて生まれた自由と愛の音楽
ウィルソン・ピケットの「ダンス天国」(’Land Of 1,000 Dances’)、アレサ・フランクリンの「貴方だけを愛して」(’I Never Loved A Man’)などの曲名を聞くと1960年代R&Bサウンドが耳の奥によみがえり身体がおのずとビートを刻んでいく。アメリカ南部アラバマ州の片田舎マッスル・ショールズの録音スタジオから生まれた数多くの名曲とアーティストたちを物語っている。彼らがインタヴューを受けて語っているマッスル・ショールズ・サウンドの歴史は、たんなる思い出話しではなくマッスル・ショールズのスタジオから人種を超えた自由と平和のドキュメンタリー映画。
テネシー川ほとりのマッスル・ショールズに録音エンジニアでプロデューサーのリック・ホールがフェイム・スタジオを建てたのは1950年代の終わり。ジミー・ジョンソン(ギター)、デイヴィッド・フッド(ベース)、ロジャー・ホウキンス(ドラム)、ベリー・ベッケト(キーボード)ら地元ミュージシャンのバンド’ザ・スワンパーズ’が組まれる。
リックとザ・スワンパーズは、フェイム・スタジオを訪れた黒人アーティストらとグルーヴ感あふれるサザンサウンドを生み出していく。パーシー・スレッジの’When A Man Loves A Woman’(邦題:男が女を愛する時、1966年)、エタ・ジェイムスのアルバムタイトル曲’Tell Mama’(1967年)など黒人に限らずローリング・ストーンズの’You Better Move On’(1964年)など白人アーティストらもマッスル・ショールズ・サウンドの魅力を求めてやって来る。
だが1969年、いっしょにマッスル・ショールズ・サウンドをつくり出してきたザ・スワンパーズの面々がプロデューサーのジェリー・ウェクスラーとともに新スタジオ、マッスル・ショールズ・スタジオを隣町シェフィールドに設立し、個性の強いリック・ホールのフェイム・スタジオから独立していった。
マッスル・ショールズ・サウンドはこの2つのスタジオの功績に負うところが大きい。必然的に、フェイム・スタジオを起こしたリック・ホールのナレーションが概ね流れをつくり、彼の半生と音楽観を知るサイドストーリーを持つドキュメンタリーにもなっている。
また、1960―70年はアメリカが公民権運動に大きく揺れた時代。とりわけアラバマ州州知事を務めたジョージ・ウォレスは、「今日も差別、明日も差別、永遠に差別」と公言しケネディ大統領とジョンソン大統領が進めた人種隔離廃止政策に真っ向から反対していた。そうした人種差別傾向の強かったアラバマの片田舎にあったフェイム・スタジオでは、白人エンジニアのリック・ホールとザ・スワンパーズのミュージシャンらが黒人アーティストと思いを一つにして新しいサウンドを作っていた。
1963年にマルティン・ルーサー・キング牧師は「私には夢がある。…アラバマ州においてさえ将来いつの日か、幼い黒人の少年少女たちが、幼い白人の少年少女たちと兄弟姉妹として手に手を取ることができるようになるという夢です」と演説で語っていた。そのことが、このマッスル・ショールズで音楽がもつ’愛と自由と平和’の実を成らせていたことに驚かされる。 【遠山清一】
監督:グレッグ・フレディ・キャマリア 2013年/アメリカ/111分/ドキュメンタリー/原題:Muscle Shoals 配給:アンプラグド 2014年7月12日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開。
公式サイト:http://muscleshoals-movie.com
Facebook:https://www.facebook.com/ougon.muscleshoals
2014年グラミー賞サントラ部門ノミネート作品。同特別功労賞受賞(リック・ホール)。