映画「フタバから遠く離れて 第二部」――フタバの人々のコミュニティ崩壊の痛みと原因に迫る

舩橋 淳(ふなはし・あつし)監督プロフィール: 1974年大阪生まれ。デビュー作『echoes』(2001年)が、「アノネー国際映画祭」(仏)で審査員特別賞と観客賞を受賞。第二作『Big River』(2006年、主演:オダギリジョー)は、「ベルリン国際映画祭」「釜山国際映画祭」でプレミア上映。東日本大震災で町全体が避難を余儀なくされた、福島県双葉町とその住民を長期に渡って取材したドキュメンタリー『フタバから遠く離れて』(2012年)は国内外の映画祭で上映。2012年キネマ旬報ベストテン第7位。著書「フタバから遠く離れて 避難所からみた原発と日本社会」も出版される。最新作は「小津安二郎・没後50年 隠された視線」。 ©クリスチャン新聞

2011年3月11日。東日本大地震による津波で制御不能になり福島第一原子力発電所はメルトダウンにまでいたった。放射線被害などについて正確な情報は公的機関から提供されない中、福島県双葉町は
3月19日に町役場ごと住民1,200人が県外の埼玉県加須市の廃校・旧騎西高校校舎へ避難した。2012年に公開された「フタバから遠く離れて」は、一時1,400人余の被災者をかかえる最大避難所となった旧騎西高校避難所での9カ月間の暮らしを追った。本作の第二部では、旧騎西高校避難所が閉鎖されるまでの1,111日間を記録している。福島原発事故による放射能汚染でいつ故郷に帰れるのか分からない被災地域の人々。そのコミュニティが分断され崩壊していく姿をドキュメントした舩橋淳監督に話を聞いた。

世界と国内での
情報格差に愕然

3・11東日本大震災のとき福島第一原発の事故の状況を伝える「国内と海外の情報格差に強いフラストレーションを感じさせられていた」CNNは、12日にメルトダウンしチェリノブイリ級の原発事故と報じ、数日後にはプルーム(原子雲)が関東一円まで覆う画像を掲載していた。
そのような状況で「双葉町住民が19日に原発事故の自治体で唯一県外へ避難したというのは、正しい判断だなと思いました」。福島に行くより最大規模の避難所が近くにでき、毎日取材した。
「取材で初めて知ったことですが、福島原発で作られた電力は100%首都圏で消費されていた。電気を生産している地元には提供されていない。自分が使う電気のために双葉の人たちが被害を受けているのなら納得しようもあるが、東京の電力のために双葉の人たちが甚大な被害を被っているのは不平等ではないか。電気を使ってきた自分たちと作ってきた双葉の人たちの対話を記録しようと思った」のが、このシリーズを撮る動因になった。

福島県外での双葉町町長選挙で当選した井澤史朗(写真中 央)。町役場事務所は、避難所の埼玉県加須市から福島県いわき市へ移転した © ドキュメンタリージャパン/ビックリバーフィルムズ

第一部では、旧騎西高校避難所での暮らしをとおして、良くも悪くも原子力にまみれていた現実が伝わってくる。第二部では、町役場が県外に移転し、国や県の被災者対応とのギャップの広がりや福島県内の仮設住宅・買い上げ住宅などへ移った住民と、マイノリティになっていく旧騎西高校避難所に残った人々との意識の違いが浮き彫りにされていく。いわば同じ双葉で暮らしてきた人たちが分断されていく現実。
以前は原発誘致に賛成だった井戸川町長だが、原発事故によって「もう、福島には住めない」という主張は当時も今も変わっていない。国や県との復興会議に欠席がちな井戸川町長に対して、町議会は全員一致で不信任案を可決。井戸川町長は辞任した。県外で行われた町長選挙では、井澤史郎現町長が当選し町役場をいわき市に移転した。
「取材で初めて知ったことですが、福島原発で作られた電力は100%首都圏で消費されていた。電気を生産している地元には提供されていない。自分が使う電気のために双葉の人たちが被害を受けているのなら納得しようもあるが、東京の電力のために双葉の人たちが甚大な被害を被っているのは不平等ではないか。電気を使ってきた自分たちと作ってきた双葉の人たちの対話を記録しようと思った」のが、このシリーズを撮る動因になった。

故郷、暮らしとは
場所だけではない

タイトルの「フタバから遠く離れて」は、双葉がカタカナで表記されている。双葉町を中心とした双葉郡(浪江町、大熊町、富岡町、葛尾村など)を含めて描いていることもあるが、「避難命令を受けたフタバの人たちは故郷を失い、コミュニティが崩壊されたままになっている。やがて、フタバという故郷は概念化されてしまうのではないかと取材を始めたときから思わされていた。いったいフタバとはどこか。避難者の最大コミュニティだったが閉鎖された旧騎西高校か、いわき市に新設された町役場がある所なのか、あるいは今は帰れない福島のフタバなのか。漢字で双葉と書くよりはカタカナ表記で表現したかった」という。
東京に電力を供給していたフタバの人たちは、いつ帰れるのか全く分からない。政府も東京電力も’復帰’を前提としているため避難に要した費用や一時的な生活費の保障は行っているが、土地家屋の買い上げなど私有財産の根本的な保障は行われてない。600年、千年近く続いた家と家系が崩壊していく現実。

国・県との対応の仕方で町議会に不信任案を可決された井戸川町長は辞職した。別れを惜しむ旧騎西高校避難所の人たち © ドキュメンタリージャパン/ビックリバーフィルムズ

本作で強烈に印象に残るシーンの一つが、被曝した牛たちを殺処分せずに飼いつづけている牧場。その牛たちの首辺りには、甲状腺がはれ上がり出血している牛の症状も目に付く。「牛たちよりも被曝した地域の人間の方が深刻かもしれません。(今年実施された県民健康調査では)甲状腺がんの子が福島全体で10万人に30人。チェルノブイリの汚染地域に匹敵する割合になっている」
だが、放射線量の問題を追うドキュメンタりー作品は、ほかにもある。「本作でのテーマは、原発事故によって被災し、避難している人たちの一番の苦しみは、自分たちの故郷、コミュニティが崩壊していることです」。
大量消費地・東京。その大都会の暮らしを支えてきた地方には放射の汚染のゴミが増え続け、健康被害さえ明確に把握した予防策さえ提示されてはいない。ただ、彼の地を見て「お気の毒に」という感傷的な立ち位置だけでは、第2・第3の原発事故が起これば同様の不明確な対応が繰り返されるだろう。舩橋監督は、「原発避難民に対して『被害者』とか『かわいそう』、『もう、見たくない』という認識の在り方そのものをひっくり返して、見直したい」と語る。その熱い想いが、このドキュメンタリーにはみなぎっている。【遠山清一】

監督:舩橋 淳 2014年/日本/114分/ドキュメンタリー/ 配給:Playtime 2014年11月15日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト:http://nuclearnation.jp/jp/part2/
Facebook:https://www.facebook.com/futabakara