お寺の住職の妻るりさんは、家族で残ることを決断し、子どもたちが出来るだけ内部被ばくしないよう食料などにも気を遣う。同じ宗門の人や全国の理解者から無農薬野菜や被ばくしていない安全な食料が寄せられ、近隣のお母さんたちもしだいに参加者が増えつつある。 © ぶんぶんフィルムズ

3・11東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所爆発事故から4年が経つ。原発再稼働への動きが強まる中で、少しの被ばくは’大丈夫’ムードが、「子どもたちの健康と将来を守りたい」と願う人たちの発言と活動を妨げかねない。’被ばくから子どもを守る’ことは、お母さんのだれもが願っていることだろう。放射能の低線量地域は、福島県内とは限らない。福島のお母さんたちとチェリノブイリに隣接するベラルーシの人々を取材したこのドキュメンタリーは、この国に住む人々にわずかであっても’出来る’ことを選択する気づきを指し示している。

福島県二本松市に住む佐々木るりさんは、5人の子育て真っ最中。400年続いているお寺の副住職・道範さんの妻だが、夫婦で話し合い他県には移住しないことを選択した。お寺は、保育園も経営している。自分たちの子どもや園児たちが被ばくしないよう、道範さんは施設周辺の汚染土を掘り起し除染する。るりさんは、食物から内部被ばくしないように食品放射能測定し、無農薬野菜や自然食品などに変えた。各地の同じ宗門の人たちからも安全な食物が送られてくるようになり、この小さな働きに参加してくるお母さんも一人二人と増えてくる。お母さんたちのつながりは、子どもたちの安全を守る’ハハレンジャー’を結成した。

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故から29年。隣接するベラルーシでは、独立後に放射能汚染地域を地図化して国民に広報している。子どもたちの内部被ばく状況や健康チェックを継続している。行政の手の届かい所はたくさんある。小児科医のヴァレンチナ・スモルニコワさんは、NPOを立ち上げて放射能の無い地域での一定期間の’保養’が子どもたちの内部被ばく値を大きく軽減させ、体力回復と抵抗力の増強に効果があることを実証してきた。
日本のNPO「チェルノブイリへのかけはし」では、北海道でベラルーシの子どもたちの’保養’を2010年まで受け入れてきた。回復力が養われて成長できた子どもたちの現在の笑顔がまぶしい。「チェルノブイリへのかけはし」では、現在は関東圏の子どもたちを受け入れて、’保養’を再開している。

現在は長野県松本市市長を務める菅谷昭さんは、チェリノブイリで5年間甲状腺がん治療の医療支援に携わった外科医でもある。市民の理解も得て、’保養’が必要な子どもを受け入れている。その豊富な医療経験から「せめて子どもと妊産婦だけは、国策としてある期間避難させるべき」と提唱している。

チェリノブイリ原発事故から28年。隣接するベラルーシでは継続して子どもたちの健康チェックを行っている。子どもたちは、行政の手当てで被ばくしていない外国へ’保養’に送り出され、体内の抵抗力を高めるよう配慮されている。 © ぶんぶんフィルムズ

多様な見解と論説がある現状を、鎌仲監督は「グラデーションの世界に生きている」と表現している。グラデーションは個々の色の集合体であって、一色に染められていく過程ではない。安全な場所に避難移動できる人ばかりではない。だが、自分のいる地域は安全と思い込むため、危険度を認識しながらできる対応をしようという意見を押し潰すのはグラデーションの世界をモノトーン化することになる。’子どもたちを守りたい’という願いが、お母さんたちの小さな声の追複となって、子どもたちの健康と未来を謳歌する国になってほしいと思わざるを得ない。

「ただ現実を描くのではない、現実の中にあるかすかな光を見つけるような映画にしたい」とコメントしていた鎌仲監督。その祈りが伝わってくるドキュメンタリーだ。 【遠山清一】

監督:鎌仲ひとみ 2014年/日本/119分/日本語、ベラルーシ語/英題:Little Voices from Fukushima 配給:ぶんぶんフィルムズ 2015年3月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト http://kamanaka.com/canon/
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