6月17日号紙面:「世界難民の日」特別シンポジウム 若者対象に
「難民とともに生きる」とは
2018年06月17日号 01面
今、人種、宗教、国籍、政治的意見の違いなどを理由にいのちの危険を感じ、出身国や地域からの避難を余儀なくされている人が、世界に約6千560万人(16年12月末時点)と過去最高を記録したという。公益財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部と特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、6月20日の世界難民の日を前に、若者を対象とした特別シンポジウム「世界の難民危機と私たちにできること〜『難民とともに生きる』を若者と考える〜」を6月2日、東京・千代田区二番町のグロービス経営大学院グロービスホールで共同開催した。同シンポジウムは今年で2回目。当日は難民と関わる各方面の専門家と学生、日本で生活する難民当事者が登壇した。 【中田 朗】
最初に木内真理子氏(WVJ事務局長)が開会挨拶。「16年の時点で60秒に20人が故郷を追われ、うち84%は生活環境が整わない中での難民生活を強いられている。また、難民の51%は18歳以下。昨年は『世界の難民危機と私たちが生きること 支援現場の最前線から』というテーマで、難民支援を行っている団体からいろいろな話を聞いた。その中で印象に残っていることは、難民になることは、いつでもどこでも、誰にでも起こりうることで、明日、自分が突然同じ立場になることだってありえる。そういう時、難民の方々とどう生きていくべきか、若者の皆さんと一緒に考える第一歩になれば」と語った。
登壇者は川内敏月(国連難民高等弁務官〔UNHCR〕駐日事務所副代表)、中村ゆき(WVJ緊急人道支援課プログラム・オフィサー)、安田菜津紀(フォトジャーナリスト)、伊藤寛了(アジア福祉教育財団難民事業本部〔RHQ〕企画第一係長)、新垣修(国際基督教大学〔ICU〕教授)、トルオン・ティ・トゥイ・チャン(インドシナ難民)、鈴木菜紘(聖心女子大学学生団体SHRET日本語ボランティア所属)、高橋英佑(慶應義塾大学学生団体S.A.L.ロヒンギャ難民プロジェクト代表)と三橋幸奈(同メンバー)の各氏。
川内氏は、今の難民の状況を説明した。「一つは、シリアをはじめイラク、アフガニスタン、アフリカの国々から地中海を越えてヨーロッパに流れている難民の人たちの数が、10年前から急増している。これらは中東、アフリカの混乱が深まっていることを象徴している」、「もう一つはミャンマーのアカイン州。ミャンマーの多くは仏教徒だが、アカイン州はイスラム教徒が多い。その中で昨年8月に大きな衝突が起き、わずか9、10か月で70万を超える人々がバングラデシュに逃げている。UNHCRの活動の中でも緊急事態と言える特殊な事例だ」
「6千560万人はある意味異常事態だ」と警鐘を鳴らす。「97年頃は3千万人だったのが、10年間でほぼ倍になっている。16年現在、シリア難民が圧倒的に多い。受け入れもトルコ、レバノン、ヨルダンとシリア周辺国が増えているが、17年の統計ではミャンマーの数が増えると思う」
1950年に創設され、約1万人以上の職員が活動するUNHCRは他団体、各国政府と協調しながら難民の保護、支援を行う。その体験から、「難民は特殊な人たちでなく、私たちと同じような人たちだ」と川内氏。「何ができるかを考えた時、やはり生の声を聞くことが、いちばん大切な作業になってくる」と語った。
中村氏は、世界で3番目に多いと言われる南スーダンで支援活動をしてきた。「南スーダンは11年に独立したいちばん若い国であるにもかかわらず、13年以降、内戦の勃発によって多くの方々が難民として海外に避難している。暴力が永続化し、武装集団にいつ襲われるか分からない中、48%の学校は機能せず、経済的に破産状態で、年間800%を超えるインフレ率という厳しい状況。支援がなければ600万人が生きていけない。18年5月現在、2千40万人が周辺国に難民となっているのが現状だ」
WVJが支援しているウガンダ北部のビディビディ難民居住地はアフリカ最大の難民キャンプで、現在29万人が暮らす。「16年8月に開設され、数か月で目黒区の人口に相当する難民が押し寄せた。行政もまひしており、厳しい状況が今も続いている」
居住区難民の約7割が18歳以下の子どもたちで、「多くの子どもたちが親を亡くし、親と離れ離れになった子もいる。自分も5人の子どもを抱えて逃げてきたが、途中で泣いている子を見つけ、放っておけなくて一緒に逃げてきた。そういう方が里親をしている。そういう里親の支援も必要だ」話す。
WVJでは、子どもが安心して遊べるチャイルド・フレンドリ・ースペースの設置、就学前の子どもに短期集中学習プログラムを行う。「新しい国での生活の基盤を作っていくためには教育の力がとても大切。教育を通じて難民・移民の子どもに対する暴力撤廃を目指すキャンペーン『Take Back Futu
re~難民の子どもの明日を取り戻そう~』を18年から4年間実施する。難民に寄り添いたいという方々と一緒にこのキャンペーンを盛り上げていきたい」と抱負を語った。(7面につづく、8面に関連記事)