真珠湾攻撃をした日本を憎み、日本本土への初の空襲に参加したアメリカ陸軍航空隊伍長、ジェイコブ・ディシェイザー。彼は捕虜の苦難と憎しみを超えて、戦後、その空襲先だった名古屋を拠点に各地で伝道活動をし、多くの教会の開拓に携わった。ディシェイザーと真珠湾攻撃を指揮した日本海軍中佐・淵田美津雄の物語を軸にした演劇「赦し」が8月22日から25日まで、名古屋市東区の東文化小劇場で公演されている。

舞台で中心になるのは、戦後米進駐軍のジープに父親をひき殺された、娘千枝とその家族だ。

家族の米国への憎しみは深かった。

ところがその家族の隣に元米兵の宣教師ディシェイザー一家がやってきた。家族、特に千枝の葛藤が始まった。

戦後の痛みを抱えた家族の機微が細やかだ。

終始登場する聖書の言葉やクリスチャンの祈りの姿勢が、「赦し」に向き合うことに迫る。国や政治的責任をふまえつつ、個々人のあり方を勧める。

明るく見えるディシェイザーについても、「赦されない」ほどの重荷が明らかになっていく。

名古屋の方言や様々な地名が登場し、60年前の伊勢湾台風も物語の重要な転換として描かれる。

地域の戦禍、戦後の歩みを語り継ぐ。出演者や観客の反応に、市民としての共感を感じさせた。

この原案・原資料を担当した加瀬豊司さん(四国学院大学名誉教授、同盟基督・愛知泉キリスト教会役員)、演出の伊藤さんは、東海テレビの開局から携わった元プロデューサー。ギリシア悲劇ほか舞台演出も手がけ、自身戦争体験者としての思いで、13年から「戦争を語り継ぐ演劇公演」シリーズを始めている。今年2月に、伊藤さんはこれらの功績を認められ、名古屋市芸術賞「芸術特賞」を受賞した。

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