「香港を覚えての祈祷会」日本の有志牧師ら70人 祈りは失望、無力感こえる

言論や集会の自由が脅かされ、市民の間でも断絶、対立が目立ってきた香港。失望感、無力感が香港内外で広がっている。そのような中、祈りに焦点を当てた集会「香港を覚えての祈祷会」が、日本のクリスチャンによって10月31日にオンラインで開催された。主催は香港のために祈り続けた超教派の有志の牧師ら(9月20日号既報)。安全面に配慮しつつクローズドの形で70人以上が参加し、香港のクリスチャンからの声も届けられた。【高橋良知】

説教は、香港の神学校に留学経験がある松谷曄介(ようすけ)さん(日本基督教団牧師、金城学院大学宗教主事)が担当。昨年来の香港のニュースには心を痛め続けた。市民の逮捕者、負傷者が出ると、「もしかしたら自分の知っている人ではないか」と気が気ではなかった。香港の友人、知人たちにすぐにでも会いたい思いがあったが、新型コロナ禍や、取り締まりの基準があいまいな国家安全法を考慮して、香港への渡航は避けた。
そのような中、今年6月にキリスト者学生会(KGK)が香港の学生団体と企画したオンラインの祈祷会にゲストとして呼ばれた。「何もできないと思っていたが、祈ることができると思わされた。祈ることこそが、無力感、絶望感、恐れに埋没せず、むしろ希望をもって歩む大きな力になる」と確信。そんな思いで、日本の超教派の牧師らを募り、夏から祈り会を始めた。

写真=香港の神学校の礼拝堂

香港への思いを表すエピソードとして、神学校の礼拝で説教を担当した時のことを振り返った。その説教では「日本と香港は、互いに近くて遠い場所に思える。だが、そこに同じ信仰の勇士たちがいる。私たちは公同の一つの神の国に住んでいる」と勧めた。説教の後には聖餐式の司式もし、「言葉、民族、歴史の負の遺産(日本軍の侵略など)を超えて、キリストの体であるパンと血である契約の杯をともに受けた」と語った。最後には、日本のため、日本の教会のために祈りを要請すると同時に、「私も日本に戻ったら、皆さんのために祈り続ける」と約束した。礼拝後には、多くの仲間から応答があり、思いを共有した。
「今この約束を果たしたい」と言う。ローマ1章8~15節を引用し、こう述べた。「パウロがローマの教会の人々と会いたいと願った気持ちに共感する。香港の兄弟姉妹と共に礼拝を捧げたい。一人ではなく、日本の皆さんと共に香港を訪ね、香港の人々と顔と顔を合わせて、こう伝えたい。『皆さんのためにずっと祈っていましたよ』と」
「この世の国家、社会の様々な課題に向き合い、声を上げていくことはもちろん大事。しかし、キリスト者にしかできないことがある。それは祈りと礼拝だ。世界各地で『国の歌を歌え』『国の旗を上げよ』『富国強兵せよ』と迫る声がある。しかし、私たちは神の国を賛美し、キリストの御旗を上げたい。絶望、恐れ、不安の中にあっても、私たちには祈る自由がある」と勧め、ボンヘッファーが獄中で作詞した「善き力にわれかこまれ」を紹介し、参加者で賛美した。

現地から試練の体験談報告
自分を見失い、燃え尽きた…

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続いて香港のある青年担当牧師が思いを述べた。「2019年は人生で最も落ち込んだ。『抗議活動による負傷者や逮捕者が出ないように、平和を作る者となれるように』と毎晩祈った。だが緊迫した状況が続き、自分を見失い、周りが見えなくなり、ついに燃え尽きた。暗闇の中で一人座り、神様の慰めさえも拒んだ」と言う。
そのような状況の中、現場を離れてリトリートに行った。当初は「エリヤのように、もう十分です。私の命を取ってください。私に香港の状況を変えることはできません」と祈った。「牧師を辞めたい」とすら願った。「目の前にある花の方が、私よりもはるかに価値があるように思えた」
転機になったのは、創世記1章を読んだことだった。「神様は創造の時に『良かった』と7回語られた。何が良くて、何が悪いかを決めるのは神様の主権。主導権を神様に渡すときに、希望を見出す。私に香港の状況を変えることはできないが、神様に忠実であることならできる」と語った。
「多くの人々が祈ってくれたので、大きな試練を乗り越えられた。私が自分を諦めていた時、私を諦めずにいる方々がいた」と感謝する。 最後に以下のように祈った。「御心に従っていけるように力を与えてください。日本の人々があなたに向かって心が開かれるように。諸教会があなたの恵みをもっと受け取れるように。あなたの計画が香港で実現し、人々が主のために香港を管理できますように。心と体が傷ついた者たちの癒しのために。教会の指導者が知恵と忍耐と愛を示せるように、逮捕された人々が守られるように」
集会では司会者(大嶋重徳・鳩ケ谷福音自由教会牧師)と会衆の交読による連祷があった。「恐怖に押しつぶされている人々」や「信頼していた国に裏切られ、心の傷を受けている人々」に思いを寄せ、「失われた自由と誇りを取り戻すために問題に取り組んでいる人」、「政府にかかわる人々」を覚えて、「神による慰めと平安」を願い、「私ども日本のキリスト者を、アジアや世界の仲間と共に、あなたにお従いする祈りの群れとして生きる者とさせてください」と祈った。
集会当日の説教、香港からの報告、連祷の全文を電子版に掲載。香港のキリスト教をめぐる状況や祈りへの導きは、以下の動画を参照URL https://youtu.be/wvNDywVRI3Q

香港を覚えて第一回連祷

2020年10月31日 祈祷会奨励(松谷)

「暗闇に射し込んできた光」_香港の青年担当牧師よりの報告