有志牧師ら緊急祈祷会 日本から香港へ祈りの輪 現地牧師は書面参加「分断の中で一致願う」

香港の人々と教会のために祈る。日本の教派を越えた有志の牧師たちでそのような動きが起き始めている。香港は英国統治の歴史があり、キリスト教会が多いだけではなく、教育、医療、福祉など様々な分野でもキリスト教の影響が大きい。東アジア宣教の拠点でもあり、日本の教会とのつながりが従来からあった。
昨年来大規模な市民デモが展開されてきた香港だが、今年の国家安全維持法(国安法)の成立後、市民の逮捕者が続出するなど緊迫した状態が続く。この問題について、キリスト者の間でも立場の相違で分断があり、牧会的配慮と一致が緊急の課題となっている。
香港の問題に関心を寄せる日本の牧師ら(後出)は、8月21日、オンラインで緊急の祈祷会を開催した。香港の牧師からは匿名で、祈祷要請文(オンラインに全文)が送られ、香港の教会を取り巻く状況が説明された。
今回有志の集まりは人数をしぼり開催されたが、参加者から「是非祈りの課題をより多くの人に共有してもらいたい」、「祈りの輪を広げていきたい」という声があり、発表にいたった。呼びかけ人は今後も慎重に状況を見ながら、祈りの輪を広げる方法を模索している。
祈祷要請文では、香港社会全体と、香港の教会のための祈りが要請されている。
香港社会について、「全体として言えることは、『一国二制度』はもはや完全に消滅した」と状況を総括。逮捕・拘束された人々、指名手配された人々、若者たちのために祈りを要請した。
香港の教会については、 対立・分裂が起きている状況を伝えた。「若い世代は政治が社会に及ぼす影響に関心を持つ一方、年輩の世代や裕福な家庭の信徒たちは、教会が政治にかかわることで、教会の運営に影響が出たり、また社会の混乱が自分たちの既得利益的な生活に影響が出ることを恐れたりし、教会は政治にかかわるべきでないと考えている」と述べた。
2019年の「逃亡犯条例」改正反対運動の際に比べ、国安法については、教会からの応答は少なかった。逆に同法への支持を表明する教会代表者もいたという。
このような反応の背景として、「北京中央政府も香港政府もどうせ耳を貸さない」というあきらめや、 「宗教活動に言及した条項がない」ことで「影響はない」という教会の意識を分析している。ただし、長期的には教会活動の制限が予想され、有志の牧師・神学教師たちが「香港2020福音宣言」を起草するなどの動きはあった。
保守的な教会では「教会が政治の事がらを無視していたりすることに対して不満を抱く青年層の信徒たちが、教会を離れる」ということがある一方、社会問題にオープンな教会では「年輩の信徒や富裕層の信徒たちが教会を離れ、より保守的な教会に移る」という現象が起きている。「コロナ禍が終息し、集会が再開されたときにこの影響が顕著になるだろう」と予想する。
祈りの課題として、「どのような一致が神の御心に沿うものなのか。社会における教会の役割は何なのか。政治的見解の相違に直面する中で、どのように信徒を牧会すべきか」などを挙げた。特に若い牧師の牧会について、「若者世代が香港の将来に向き合えるように、どう導くべきか。保守的な年配の長老・執事たちとどう向き合い牧会すべきか」という課題に直面していることに触れた。

有志の呼びかけ人12人(五十音順、敬称略)。朝岡勝(日本同盟基督教団徳丸町キリスト教会牧師)、大石周平(日本キリスト教会府中中河原教会牧師)、大嶋重徳(日本福音自由教会協議会鳩ヶ谷福音自由教会牧師)、大西良嗣(日本キリスト改革派宝塚教会牧師)、伽賀由(日本メノナイトキリスト教会協議会日本メノナイト帯広キリスト教会)、唐澤健太 (カンバーランド長老教会国立のぞみ教会牧師)、平野克己(日本基督教団代田教会牧師)、星出卓也(日本長老教会西武柳沢キリスト教会牧師)、 増田将平(日本基督教団青山教会牧師)、松谷曄介(日本基督教団牧師、金城学院大学宗教主事)、三輪地塩(日本キリスト教会浦和教会牧師)、森島豊(日本基督教団牧師、青山学院大学宗教主任)。