東日本大震災から10年を迎えます。この災害を教会、個人はどのように迎え、痛みを覚え、祈り、考え、行動したか。

いのちのことば社で刊行された手記について、クリスチャン新聞の当時の記事から振り返ります。

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「ただただ彼女たちの言葉を聴くしかない…」。
私の素直な読後感想である。東京電力福島第一原子力発電所の引き起こした史上最悪の公害事件(自然災害ではなく明らかな人災)によって生み出された広大な放射能汚染地帯。登場する9名の証言者に共通していることは、事故の被害当事者として歩んで来られたこと(日本の法令に従えば「当事者」は東日本一円に途方もなく広がる)、子どもと共に歩んでおられること、命を生み出す女性であるということである。

事故後、私も福島市や、郡山市、飯舘村、南相馬市、いわき市、会津若松市といった町々を訪ねる機会を与えられた。津波と地震被害に遭った一部地域を除けば、その風景は悲しいほどに「普通」であり、当たり前のように花が咲き、川が流れ、人々が行き交っている。

けれどもガイガーカウンターを通じ、目に見えない、臭いもしない、色もない放射能の存在を知らされる。報道が極端に少なくなったが、事故は終息の糸口すらつかめていないどころか、深刻を極めている。何も終わっていないし、これから先の見通しも全く立たないのだ。そこで暮らしを営んで来られた方々の物語がここにある。子どもたちの将来は、一家の暮らしはどうなるのか、その不安の中で一人一人が「今日どう歩むべきか」待ったなしの選択を迫られ決断しながら歩んで来られた2年10か月の苦悩が十字架の釘痕のように刻まれている。

私たちはこの物語の背後にある数え切れない他の物語の事を忘れてはならない。何よりこれは「経過報告」なのだ。なぜならば「フクシマ」は終わっていないのだから…。彼女ら、彼らの苦悩の歩みの中にある言葉を聴き、彼女ら、彼らの見いだす灯にこそ心を寄せさせていただきたいと私は祈る。本書はそのようにして皆が囲み、黙して聴くべきものであると思う。同時に私たちは無関心であってはならず、無関係でもない。今果たすべき責任もそれぞれに問われているのではないだろうか。
(評・野中宏樹=日本バプテスト連盟鳥栖キリスト教会牧師)
2014年02月02日号から

『終わらないフクシマ 女性たちの声』
中尾祐子著 発売日:2013/12/25

本紙連載を元に単行本化

 

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