在日・本国ミャンマー人支援「アトゥトゥ」設立 政情で感染拡大止まらず
写真=洪水、猛暑の中、新型コロナで無くなった人の遺体を運ぶミャンマーの状況がある
国軍の弾圧に加え、新型コロナ感染拡大、洪水…。2月1日の国軍によるクーデターから半年となったミャンマーでは日々人々の命が脅かされている。国軍の影響で感染の予防・治療や葬儀も追いつかず、海外からの支援も制限される。2月から毎週金曜日に祈り会を継続してきた「ミャンマーを覚える祈り会」は、本国の市民と日本在留者の危機的状況を踏まえ、具体的な支援団体「アトゥトゥミャンマー支援」(以下「アトゥトゥ」)を8月1日に立ち上げ、賛同者、献金を募っている。【高橋良知】
海外からの支援も困難
同祈り会は7月30日で25回を迎えた。一連の活動で明らかになったのは本国の社会状況のみならず、日本に住むミャンマー人の窮状だった。「アトゥトゥ」では、在日ミャンマー人の在留資格や病院、公共施設への同行、日本語習得、緊急の必要への支援をし、安全なルートを確保してミャンマー本国への支援にも取り組む予定だ。
30日の祈り会では在日ミャンマー人男性が来日のいきさつや思いを述べた。男性は1988年の民主化運動に参加し、拘束を逃れるために93年に親戚がいる日本に来た。来日時は19歳。「苦しかったのは日本語の習得に加え、周囲の人たちが生き生きと青春時代を送っている姿を見ることでした。『自分だけなぜ…』と泣いている日々が多かった」と振り返る。ミャンマーのクリスチャン家庭に生まれた男性にとって、教会は安心できる場所だった。「日本でも教会に行き、自分の家に戻った感じがしました。教会があって今まで生きられたと思います」と述べた。
今年2月のクーデターが発生した時は「ミャンマーの次のステップ、夢を断ち切られた思いでした。『神様、なぜ』と祈った。何もできない自分にいら立ちました」と語る。
現在ミャンマーに支援金を送ることすら困難だ。「海外からの支援金を受け取って反逆罪で軍に捕まった人々がいます。今ミャンマー全土でコロナ感染が拡大し、毎日悲しい知らせが届く。家族の中にも何人か感染しました。不足している酸素ボンベなどを送りたいが難しいです。現地の人も本当は送ってほしいけれど、受け入れられないのです。お互い助け合うこともできない状況です」
「毎日フェイスブックを見たり、連絡を取ったりしているが、一時間ごとにいろんなことが起こります。もう言葉にならない。正直ネットを見るのは怖いくらい」と心情を語った。日本で祈る人々に向けて、「皆さんが参加してくれることに本当に感謝。祈りには力がある。これからも祈り続けてほしいです」と語った。
写真=「アトゥトゥ」とは「共に」という意味
日本の無理解、利権主義が課題
8月1日の「アトゥトゥ」設立集会では、冒頭で共同代表のマキンサンサンアウンさん(バプ同盟・杉並中通教会牧師)が現状を述べた。「ミャンマーでは年内に総選挙を実施する予定だったが国軍は、再来年以内に実施と引き延ばしました。コロナ感染死亡者も増え、軍は一日3千人を火葬できるよう火葬場を増加したのです。だが人々が怒ったのは、人を生かすことにではなく死んだ後のことを軍がしているからです。ゴミ焼却場で遺体がゴミとともに燃やされている実態です」
続いて「アトゥトゥ」設立の背景と活動内容について、同じく共同代表の渡邊さゆりさん(マイノリティ宣教センター共同主事)が説明した。
「88年の軍事クーデター後には、日本に逃れる人が増えた。だが難民申請を繰り返しても認定されない人は多かった。日本政府は2010年以降、毎年30人のミャンマー人難民認定を約束したが、実情は、言語・文化・宗教どれをとっても過酷だった」と指摘する。「政府が行った計画難民政策の実施翌年以降は、移住辞退者が続出した。日本の政策は、日本に適応させる同化政策であり、事実上失敗だった。現在日本にはミャンマーにルーツをもつ人たちが3万5千人いると言う。2千500人近くが難民申請却下の不服申し立てを続けています」
「技能実習生の労働環境も劣悪」と言う。「休むとペナルティが課され、心身が疲弊し逃亡する人もいる。現在帰国困難となった留学生、技能性のビザの期限が迫る。政府は5月にミャンマー人への特別緊急避難措置を発表したが、在留資格保持者は変更申請できても2千500人近くの難民申請者は送還対象を免れていない」
最後に日本とミャンマーの関係を踏まえ、こう述べた。「ミャンマーを『アジア最後のフロンティア』と呼び、莫大な債務を免除する代わりにミャンマー人から労働搾取をし、同時に在日ミャンマー人に対しては排他的な政策を取り続けたことは見過ごされてきた。日本の無理解、利権主義的な態度が在日ミャンマー人を生きづらくさせている。日本とミャンマーとのかかわりをとらえなおし、和解と平和実現のための協働の道を歩みたい」
「アトゥトゥ」世話人でバプ同盟・関東学院教会牧師の髙橋彰さんは「私の属するバプテスト教会では、カチン族をはじめ、ミャンマー人とのかかわりがある。いっしょに神学校で学び、子どもたちはキャンプでお世話になったり、海外の大会にいっしょに参加するなどしてきた。今までは断片的にしかミャンマーの状況を知らなかったが、25回の祈り会を通して、ミャンマー人の皆さんがどのような思いで過ごしてこられたのか深く考えさせられた」と話す。
「『アトゥトゥ』とは、ビルマ語で『共に』という意味。今までも『共に』活動してきたつもりだったが、それは日本で適応する意味での『共に』だった。今必要なのはミャンマーの方々の現実をもっと知って、その現実を『共に』生きるということではないか。今回挙げられた『課題』は、『在日ミャンマー人の課題』ではなく、『日本が抱えてきた課題』だと強く思う。それを変えていくのは私たちの責任」と語った。
8月1日現在賛同者(個人・団体)は73。賛同者受付はEmail:s.watanab
e@cmim.jp(渡邊)に名前・肩書を明記。賛同者には2か月に一回ニュースレターが届く。献金あて先はゆうちょ振替口座00190・4・119379、加入者:外キ協、通信欄に「ミャンマー」を明記。祈り会の情報についてはマイノリティ宣教センターのフェイスブックページを参照。
(2021年8月15日号掲載記事)