宗教批判の渦の中で

碓井 真史 新潟青陵大学大学院教授/心理学者

宗教が揺れている。日本のマスコミで、「宗教」の話題がこれほど大きく取り上げられ続けたこともないだろう。統一協会は、宗教法人解散の話題まで出てきている。その前には、アメリカ大統領選挙の話題で、大きな力をもつ「福音派」に関する報道があった。一般のニュースで、福音派という言葉を聞いたのは始めてだった。
近年の宗教に関する話題は、「宗教離れ」だったろう。新宗教と呼ばれる創価学会も天理教もPL教団も信者数を減らしているという。エホバの証人も、教会に当たる王国会館の数が減っている。伝統宗教の仏教も檀家の減少に悩み、各地方の小さな神社も氏子たちが支えきれなくなっている。そしてキリスト教会も、信者の高齢化や無牧問題などがしばしば話題になっている。
以前世間では、口の悪い人は「坊主丸儲け」などと世俗化した僧侶を揶揄(やゆ)していたが、牧師に対してはおおむね好意的だったように思う。しかし今、インターネット上では、危ないキリスト教会、行ってはいけないキリスト教会などの情報があり、キリスト教会への批判も多く見られる。批判の内容は様々だが、中には私たちから見れば通常の福音派団体をカルト視したものも見られる。

問われているのは私たちの態度

私たちは、キリスト教会は統一協会とは全く違うと考える。その通りだ。しかし、その違いを社会に向かってわかりやすく伝えてきただろうか。アメリカの福音派はトランプ氏を支持する過激な宗教右翼で、日本の穏健な福音派とは異なると言う人もいる。だが、一般の人々はその違いを理解しているだろうか。他宗教の信者の減少などは、私たちには無関係だろうか。しかし、どちらも同じ21世紀の日本社会での出来事だ。
連日の統一協会報道が、宗教やキリスト教のイメージアップにつながっているとは言い難い。求道者やご家族の中には、不安を感じている人もいるかもしれない。報道の中で、統一協会が集会ごとに献金を募ることに驚いていたワイドショーのコメンテーターもいたほどだ。
先日の国際報道では、アメリカ福音派牧師の4割が辞職を考えていると伝えられていた。信仰を失ったからではない。信者たちが、科学を否定し陰謀論に走り過激な極右的言動をとる中で、牧師は愛と平和を語り陰謀論を否定するのだが、牧師が誠実に語るほどに信者との距離が開いていくというのだ。疲れ果てた牧師が辞職した後は、過激な信者に迎合する牧師がやってくるのだという。
今、宗教は揺れている。しかしだからこそ、私たちの役割は増している。真実と救いを求める人々は、「答え」を示してくれるカルトや陰謀論に容易に飲み込まれる。あるいは、宗教への信頼を失った人々は、信仰や教会組織をあっさりと全否定する。教会内にも問題はある。教勢拡大への願いがゆがみ、カルト化してしまう教会もある。カルト問題に関わってきたが、疲れ果てている牧師もいる。祈りが必要だろう。コロナ、カルト、戦争…。変わりゆく社会の中で、宗教と命と科学に対する私たちの態度が問われている。

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2022年11月06日号掲載記事)