《連載》世の目人の目聖書の目㉝「クリスマスうつ」を思う
「あなたなりにできること」がある
碓井真史 新潟青陵大学大学院教授心理学者
「クリスマスうつ」。楽しいクリスマスだからこそ、心が落ち込みうつ状態になることを指す言葉です。楽しいクリスマス。恋人とデート、友達とパーティー、欧米なら日本のお正月のように愛する家族が集う、一年で最も心温かくなる日。だからこそ、そんな素敵なクリスマスがやってこない人々は、底知れぬ孤独を感じます。
テレビからは軽やかなクリスマスソングが流れ、人々はとても幸せそう。そんな人生の〝勝ち組〟と自分を比較し、ますます惨めになります。また、クリスマスは過去の思い出にひたりやすいとき。失ってしまった愛する人、活躍していた日々、思い出して寂しさに震えている人もいます。家庭内で、この季節のお祝いや行事が何もない子どもたちもいます。
さて、そんなクリスマスシーズンに、私がここいる意味は何でしょう。あなたがそこにいる意味は何でしょう。ほんの少しですが、書くことができる、話すことができる、歌うことができる、寄付することができる。何かの専門知識や経験や技術や力がある。家庭内の役割、社会での役割、特技、職業。いろいろな私たちが今ここにいるのは、孤独におびえる人々に癒やしと希望を届けるためではないでしょうか。
歌手さだまさしさんの歌「あなたへ」。自分には歌うことしかできないけれど、自分には歌があるから、あなたのために歌い続けると、彼は心を込めて伝えます。私たちにも、それぞれの「歌」があるのだと思います。牧師だからこそできること、牧師でなければできないこと。コックさんも大工さんも、教師も看護師も、親としても友達としても、あるいは地域の大人として、それぞれの職業や役割の人々にとって、あなたならではのことがあるでしょう。
上手な歌手でなくても、目の前で泣いている人のために歌えるのは、今そこにいるあなただけです。私は楽器が弾けない、私には大金はない、私は口下手。たとえそうだとしても、私たちにはそれぞれの役割やタラントが与えられ、今いる場所に遣わされているのでしょう。何かのプロでなければできないこと、家族でなければならぬこと、友人ならではのこと、匿名だからこそできること、それぞれのクリスマスの活動があるはずです。たとえ小さな働きでも。
ああ、自分はこの人と出会うために遣わされたのかもしれない。そんな風に感じることはないでしょうか。あなたなりのクリスマスプレゼントを、誰かに届けることができます。もちろん、受け取る人はハッピー。そして、そんな「スピリチュアル」な思いになれた送り主にも、穏やかな幸福感が訪れます。与えることは幸い。親切行動やボランティア、誰かのために時間やお金を使うことは幸福感を高めると、心理学的にも実証されています。もうすぐクリスマス。主の豊かな恵みが全ての人に注がれますように。
(2024年12月08日号 03面掲載記事