映画「偉大なるマルグリット」－－音楽とオペラへの情熱に隠された可笑しくも哀しい夫婦愛

可笑しくも哀しい夫婦の愛情物語。
オペラと音楽を愛する大富豪の男爵夫人マルグリット。気前のいい慈善家でパリ郊外にある自分の邸宅で音楽会を催し、自ら歌姫として出演する。だが、誰が聞いても“音痴”であることを、マルグリット自身は気づいていなかった。なぜ、歌い続けるのか。彼女の心の奥底にある深い寂しさが、大戦が終結した1920年のフランスの気分と人々の心模様とともに描き出されている。

【あらすじ】
1920年秋。デュモン男爵夫人マルグリット（カトリーヌ・フロ）の邸宅では、恒例の慈善音楽会が催されていた。招待状はないが、新聞記者のボーモン（シルヴァン・デュエード）と挿絵画家のブリースト（オベール・フェノア）は塀を乗り越えてサロンに紛れ込んだ。プログラムは進み、いよいよ主役のマルグリットが孔雀の羽根を頭に着けて登場しオペラ“魔笛”の「夜の女王のアリア」を歌う。ボーモンは思わず失笑し、キリルは唖然とする。みごとなまでの音痴なのだ。それでも、堂々と歌い終わったマルグリットに、招待客はマナーとして笑顔で拍手を送る。そこに、車が途中エンストしたと言い訳する夫ジョルジュ（アンドレ・マルコン）が入ってきて拍手する。

マルグリット本人は、自分が音痴であることにまったく気づいていない。招待客の笑みは、自分の歌を心から楽しんでくれていると信じている。そんなマルグリットの歌に、ボーモンは何か不思議な魅力を感じた。ボーモンは翌日の新聞記事で「心を鷲掴みにする声」「悪魔を追い払うほどの迫力」と、マルグリットの歌を評価した。その記事に歓喜したマルグリットは、新聞社を訪ねボーマンの小説やキリルの画集の出版には応援すると申し出る。

しかし、ブリーストらは、アナーキーなイベントを企画しマルグリットに国歌を歌わせて騒動を起こす。スキャンダラスな記事によってマルグリットは慈善協会から除名される。だが、マルグリットはめげずに、むしろ取り巻きではない本物の観客の前で歌う感動に目覚め、パリでのリサイタル開催を決断する。ジョルジュは、リサイタルを開けばマルグリットの音痴ぶりが世間に知れ渡り、妻が深く傷つくのを恐れ何とか止めさせようとする。だが、マルグリットは新作オペラの興行に失敗したオペラ歌手ペッジーニ（ミシェル・フォー）らを雇い、リサイタルに向けて日々練習に取り組む…。

【みどころ・エピソード】
取り寄せたオペラの衣装を身に着け、忠実な執事マデルホス（デニス・ムブンガ）に撮影させては邸内に飾るマルグリット。オペラに対する情熱は半端ではない。オペラの楽曲と情景は、マルグリットの心の内を意味づけていく。そして、半端ではない“音痴”の熱唱もやはりみどころ。

ジャノリ監督は、アメリカに実在したフローレンス・F・ジェンキンス（1868年7月19日～1944年11月26日））という富豪で音痴の歌手のレコードを聴き、彼女の自信に満ちた笑顔のジャケットを見てイマジネーションを掻き立てられたという。だが、監督は彼女の資料を解釈し自由に物語化して本作を作り上げている。彼女のレコードは今もＣＤ化されている。その歌声は、不思議なほどマグリットの心の解放の渇望を湧き立たせてせてくれる。一人の監督の素晴らしいイマジネーションに敬服する。　【遠山清一】

監督：グザビエ・ジャノリ　2015年/フランス/129分/映倫：PG12/原題：Marguerite　配給：キノフィルムズ　2016年2月27日（土）よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDFN CINEMAほか全国ロードショー。
公式サイト　http://www.grandemarguerite.com
Facebook　https://www.facebook.com/偉大なるマルグリット-167431493609668/

＊Award＊　第72回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞ノミネート作品。