朗読は綾瀬はるか (C)広島テレビ
朗読は綾瀬はるか (C)広島テレビ

1945年8月6日、第二次世界大戦でアメリカ軍が広島に投下した世界初の核兵器・原子爆弾。当時の人口約37万人のうち9万~16万6千人が、被ばくから4か月以内に死亡したとされる。旧制広島県立第二中学校(広島二中)一年生321人の犠牲者もそのなかに数えられる。12、13歳の子どもたちの最期を看取った母親の手記が残っている。それらの手記や子どもたちの記録をもとに広島テレビが1969年に制作・放映したドキュメンタリー「碑(いしぶみ)」を是枝裕和監督、語り部に綾瀬はるかを迎えてリメイクした劇場公開版。今年5月27日、アメリカ大統領として初めてオバマ大統領が広島市を訪れ平和記念公園の原爆記念碑に献花した。戦争が、人と人が殺し合う事から一つの都市を一発の核爆弾によって壊滅させ市民を抹消するものへと転換させた日。持って行き場のない怒りを心に刻まれたあの日の子どもたちを、今日も語り継がれるべき重みが静かに深く届いてくる。

【あらすじ】
中空に上り立つきのこ雲の柱を思わせるように円柱形が浮かんでいる。その面に映し出されている広島二中一年生生徒たちの顔写真。中央に椅子が一つ、周りを木箱が囲んでいる。白い木綿のブラウスに黒いロングスカートの綾瀬はるかが学籍簿を開く。「昭和20年8月6日の日の出は、午前5時24分。朝から暑い夏の日でした。…」女性教師が、静かにその日を語り始める。

朝、広島二中の一年生たちと4人の教師が建物解体作業のため本川の土手に集合していた。晴れた空に4機のB29。生徒たちの点呼が終わったとき、500メートル先の上空で一発の原子爆弾が爆発した。12~13歳の子どもたちの顔写真が木箱の表面に映し出される。その子の性格、得意なこと、家を出るときの子どもと家族の最後の会話…。

爆心地から500メートルほどの所で生徒たちの三分の一は即死、三分の二は数日のうちに亡くなったと言われる。大川に飛び込んだ子、大やけどを負いながら家に帰ろうとして力尽きる子。燃え盛る町に向かって我が子を捜しに向かおうとする家族。運良く見つけ出しても自宅であるいは救護所で母親らに最期の言葉を語り死に水をとってもらえた子…。

8月6日は何の日か?。街頭インタビューで質問されて答えられない日本の子どもたちも多い。原子爆弾に被ばくした人たちも少なくなっている。そして風化は進み8月6日と9日の記念式典の模様がテレビニュースに流れる程度になっている日本。ジャーナリストの池上彰が街頭や平和公園などでリポートする。原爆が落とされたその日、集合場所にいなかったため被ばくしなかった教師と生徒がいた。生き残った彼らの思いはいかばかりか。教師の遺族と生徒本人が静かに語る言葉に心の重さが伝わってくる。

(C)広島テレビ
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【みどころ・エピソード】
原爆と聞けばあのきのこ雲が目に浮かんでくる。そして一瞬にして跡形もなく消え去った家並…。そのような悲惨さを視覚的に印象付ける演出はなにもなされてないない。ただ教師然とした綾瀬はるかの声が子どもたちと家族の最期の様子を語り伝える。その周りの木箱が、市内を流れる二つの川に、また棺の山にと姿を変え、語られている子の元気な笑顔の顔写真が移り変わるだけ。なんとも静謐で、肚の底からふつふつとわき上がる持って行き場のない重たい怒り。ただ、坦々と語る綾瀬はるかの声が不思議な落ち着きを感じさせてくれる。教師も子どもたちを戦争へと駆り立てていた立場の一人ではあるのだが…。

オバマ・バラク米国大統領が、5月27日に米国大統領として初めて原爆被災地ヒロシマの平和記念公園を訪れた。核兵器廃絶を訴えてノーベル平和賞を受賞した大統領は、原爆記念碑の前で次のように語っている。
「私たち人類は、過去で過ちを犯しましたが、その過去から学ぶことができます。選択をすることができます。子供達に対して、別の道もあるのだと語ることができます。 人類の共通性、戦争が起こらない世界、残虐性を容易く受け入れない世界を作っていくことができます。物語は、被爆者の方たちが語ってくださっています。原爆を落としたパイロットに会った女性がいました。殺されたそのアメリカ人の家族に会った人たちもいました。アメリカの犠牲も、日本の犠牲も、同じ意味を持っています」

人間同士が戦闘で殺し合った犠牲者の命と遺族の悲しみには、どちらの犠牲者にも同じ意味があるのかもしれない。だが、原子爆弾は一つの都市を丸ごと破壊するために造られ、その目的のために二度使用された。無抵抗な赤ちゃんを銃剣で刺し殺そうとする兵士に向かって、その理性と良心に訴えたり、親が身代わりなって銃剣の前に身を挺すればもしかしたら赤ちゃんは殺されずにすむかもしれないなどの躊躇を与えることもできない。放射線物質の体内や遺伝子への影響は、言いようのない恐怖心を与え続ける原子爆弾と戦闘での犠牲者とが、とても同じ意味とは思えない。静かに伝たわる呻吟からは、怒りの深さが感じられる。 【遠山清一】

監督:是枝裕和 2016年/日本/85分/ドキュメンタリー/サイズ16:9/ 配給:広島テレビ 2016年7月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://ishibumi.jp
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