(C)MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINEMA - MELY PRODUCTIONS
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化石燃料、金鉱石・ウラン鉱などの鉱石を掘り続けられ、地球はスイスチーズの穴のようになっている。人間の営みから排出されるガスと共に地中から可燃性ガスが放出され、地球温暖化は加速化される…。この負の連鎖を断絶して、子ども世代へ地球でのこの世界の暮らしをつなぐために、パーマネント(永続的)なライフスタイルを提唱し実践している都市・地域を探して旅する実効性に富んだ啓発ドキュメンタリー。

ネイチャー誌掲載の論文の警告に衝撃を受けた
ジャーナリストとメラニー・ロランら映画で探訪

2012年6月にアメリカのスタンフォード大学とカリフォルニア大学の21人の科学者が、科学雑誌「ネイチャー」誌に、「世界が現在の生活習慣を変えなければ、2040年から2100年までに、生物絶滅の加速、異常気象の増加など地球環境が壊滅状態になる」という論文を発表し、世界に大きな影響を与えた。女優で映画監督のメラニー・ロランは、友人であり俳優でジャーナリストのシリル・ディオンからこのニュースを聞き大きな衝撃を受けた。当時、妊娠していたメラニー自身、子どもたちの幸せな未来のために「何とかしたい」と立ち上がる決心をし、友人のシリル・ディオンとともにこの地球で、この世界で「幸せに暮らすためライフスタイル」を探し求めて旅に出る。

「幸せに暮らすためのライフスタイルを探す旅」は、一つのジャンルを探求して解決できるものではないことを詳らかにしていく。まず、ネイチャー誌に論文を発表したうちのエリザベス・ハドリー(生物学者)とアンソニー・バルノスキー(古生物学者)に取材し、いまのままのライフスタイルを続けると、地球エコノシステムが崩壊する要因は、生物多様性の危機の加速、異常気象の発生件数の増大、エネルギー依存など多岐にわたる。生態系が壊滅危機にある科学的な根拠を科学者たちが説明する。そして、パーマルカルチャー(持続型農業=文化=)講師でトランジション・ネットワーク(石油への依存と地球温暖化を防止する理想的な地域社会形成を目指す)を創設したロブ・ホプキンス氏らが登場する。

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解決策を探し求める旅は、5つのステージを辿っていく。
1stステージ:“新しい食のあり方”食糧問題。旅の始まりは、アメリカのデトロイト市。自動車工業が地場産業だった200万都市が、現在は人口70万人に減少し食料流通など都市機能にさまざまな問題が生じている。残った住民たちが実践してるのは“自給自足”による新鮮な食料の生産。広い工場の跡地などで近郊農業を展開している。また、イギリスのトッドモーデン市では、インクレディブル・エディブル(みんなの菜園)運動を展開し、自宅の庭はもちろん町の公有地や道路沿いの花壇にも野菜などの作物や果物を植えて共有してる。現在では8割以上も地元の食材を購入している。

2ndステージ:“石油など化石燃料からの脱却”エネルギー問題。デンマークのコペンハーゲンでは、二酸化炭素(カーボン)中和化構想実現のために、100基の風力発電機建設、家庭ごみのバイオガスへの変換、プラスチック素材のリサイクル、地熱エネルギー、ソーラーシステムを実施し効果を上げている。そのほかイギリス・レイキャビックやフランスレユニオン島での再生可能エネルギーへ転換した地域社会での成功例。アメリカ・サンフランシスコでのすべてのゴミをリサイクル活用させる“ゼロ・ウェイスト”プロジェクトでは80%のゴミを再活用している。

3thステージ:“消費を増やしながら、同時に減らすことはできない”持続可能な経済システムの問題。フランスのポシェコ社での「環境配慮型の生産体制」の経済的効果の大きさ。イギリス、ベルギー、スイスでの地域通貨が地域経済に大きな発展をもたらしている実際例などを探訪。

4thステージ:“私たちが持っている力”民主主義の問題。“疲弊した民主主義症候群”を覆す市民参加政治システムを観るため、アイスアンドのレイキャビク、インドのコタムバカムに行く。

5thステージ:“人として成長するため大切なもの”新しい教育の問題。これまでのライフスタイルを変える努力は、個々人の創造力と協調性が大切。問題の解決を求め、実践していくためには教育システムの改革が重要で、その実際例をフィンランドのヘルシンキを訪ねる。常に共通テストに追いかけられるような管理教育ではなく、人間の創造性と向上心を心地よい刺激でくすぐり、高い効果を上げている。

本来、人間は貪欲で惰性的な存在なのかも。
幸せに暮らすためのライフスタイルの実行へ

ほんの一握りの大富豪が経営する企業体に世界の富が還元されている経済システムを見せつけられ、そのための効率化が謳われ地球の資源が浪費されている。本来、人間は貪欲で惰性的な存在なのかもしれない。破壊されていく地球環境、独占化されていく世界経済…、その問題解決のためには複雑に撚れた糸を解きほぐしてシンプルに自然を再生する暮らしを実行していく覚悟が出発点になる。このようなテーマのドキュメンタリーでは、問題の糾弾と批判で投げかけられるままになりがちだが、「幸せに暮らすためのライフスタイル」を実践している世界の拠点を旅していく本作は、明日へ向かって結ばれていく稜線の頂を指し示していてどこか楽しい。 【遠山清一】

監督:シリル・ディオン、メラニー・ロラン 2015年/フランス/フランス語、英語/120分/原題:Demain 配給:セテラ・インターナショナル 2016年12月23日(金)より渋谷イメージ・フォーラムほか全国順次公開。
公式サイト http://www.cetera.co.jp/tomorrow/
Facebook https://www.facebook.com/cetera.tomorrow

*AWARD*
2016年:第41回セザール賞ベストドキュメンタリー賞受賞。