碓井 真史 新潟青陵大学大学院教授/心理学者

前回
《連載》世の目人の目聖書の目―世相を読む㉟ 教会組織の危機管理

不平、不満を減らす表現方法とは

3月は別れの季節。年度末は変化の季節だ。異動や転職、進学、転居。すべての変化はストレスである。望んでいた変化ですらストレスになる。出世したのに心のバランスを崩す「昇進うつ」もある。ましてや不本意な変化なら、さらに辛(つら)い。毎年3月は、自殺予防月間とされているほどである。
教会にも変化が訪れる。牧師にも信徒にも、様々な変化が生まれる。気をつけなければ、心を病むことにもなりかねない。今回は心理学の面から、変化に伴う心の健康について考えたい。
人間は、基本的には変化を避けて現状維持を求める。変化すれば現在の状況よりも好転するとわかっている時でさえ、なかなか行動できない(現状維持バイアス)。だから、何かを変えようとすれば、必ず反対者が出る。年齢を重ねれば、この傾向は一層強くなる。子どもたちは、席替えやクラス替えを不安がりながらも楽しむが、中高年は変化に抵抗する。変わってしまえば、昔は良かったと語りたくもなるのだ。
それでも変化はやってくる。変化は怖いが、変化の悪影響は一時的だと理解しよう。携帯電話など必要ないと言っていた中高年が、今やスマホを使いこなしている。それに、私たちはいくつもの変化を乗り越えて来た。中高年なら豊富な人生経験があるはずだ。きっと今度も大丈夫と思えるだろう。若者に向かって、これまでの主の導きを証しすることもできるだろう。変化するのは、自然なことなのだ。
不本意な異動の人もいるだろう。こんなときこそ、これまでお世話になった全ての方々に感謝の気持ちを表現しよう。ここから離れたくないと思うほどに、良くしてもらったのだ。研究によれば、感謝の心と表現によってストレスや不平不満は減り、不安、孤独感、嫉妬心も減る。笑顔で異動できるだろう。
一方、心待ちにしていた異動の人もいるだろう。気持ちは高揚しているだろうが、©期待のハードル(要求水準)を少し下げることも必要だ。全てが完璧な環境はないのだから、小さな変化を楽しむ心の余裕を持つことで、新しい環境に適応しやすくなるだろう。
教会にも、去る人残る人がいる。愛する兄弟姉妹、頼りにしていた友人と離れるのは辛(つら)い。去る人の新天地での活躍を祈りたい。残された人々は、少し大変になるかもしれないが、新しい役割が生まれ、各自の成長にもつながるだろう(役割適応)。
それでも、悲しいものは悲しい。辛いものは辛い。今のままでいたいと願う気落ちも尊重したい。泣いている人に寄り添いたい。そうして、新しい4月を迎えよう。

2025年03月09日号 03面掲載記事)