「空気人形」とは、セックスの「代用品」。空気ポンプで膨らまされて、誰かの「代用品」になるだけ。その空気人形がある日、心をもってしまった。「代用品」であるが、持ち主には好感が持てなくなっていく。心をもったことで、嘘もついてしまう。

監督・脚本・編集:是枝裕和作品。出演:ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路。写真/瀧本幹也 (C)業田良家/小学館/2009「空気人形」製作委員会
監督・脚本・編集:是枝裕和作品。出演:ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路。写真/瀧本幹也 (C)業田良家/小学館/2009「空気人形」製作委員会

やがて自分で空気を入れ、アパートの外へ出ていき、レンタルショップのアルバイトにも就いた。そこで働く青年に淡い恋心を抱く。町の人にも接していく。毎日のように新聞の事件記事を切り抜いては「私が犯人です」と交番に自首して来る未亡人。根気よくお相手する警察官。失われていく若さに執着する受付嬢。空き地に置かれたベンチに毎日座っている老人は、自分の死が近いことを感じているようだ。その老人に空気人形は、自分の身体の中は空気だけで空っぽ、と告白する。「私も同じだ。いまどきはみんなそうだろう。君だけじゃない」と答える老人。心に向き合えない空虚で孤独感をもった人間たちは、自分と同じと感じる空気人形。

業田良家のコミックス作品『ゴーダ哲学堂 空気人形』を映画化した是枝裕和監督。一歩間違えば嫌らしさが鼻につきそうな「空気人形」の役柄を、ペ・ドゥナはピュアに好演していて救われる。

身体の中は空っぽでも空気で満たされている。そんな空気人形の身体が、お店で傷がつき勢いよく空気が抜けてゆく。必死に傷口にテープを貼り、自分の息を吹き込み蘇らせていく店員の青年。いのちのある息が吹き込まれ、温かいもので満たされていく空気人形。空っぽの空気人形と心に向き合えない人間を結ぶ、この息・空気がこの作品の一つのキーワードのようだ。原作には仏教的な人間観・世界観が流れているように感じられる。

聖書の神、聖霊の息を知るキリスト者は、このキーワードにどう応えようか。  【遠山清一】
9月26日(土)より渋谷シネマライズ、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー。R15指定/配給:アスミック・エース。

公式サイトはこちら→http://www.kuuki-ningyo.com