映画「パーソナル・ショッパー」--現実と霊的世界観とのはざまに揺らぐ自己存在
ハイブランドなファッションに囲まれた現実とニューエイジな霊的世界観のはざまに揺らぐファンタスティックで見応えのあるサイコスリラー。女性の内的審美性を引き出すアサイアス監督の演出が、ホラー映画とは異次元の内観的な怖さが迫ってくる。
【あらすじ】
モウリーン(クリステン・スチュワート)は、3か月前に心臓病で急死した兄ルイス(シグリッド・ブアジズ)が住んでいたパリ郊外の館にやってきた。双子の兄ルイスは、降霊術を行なう霊能者だった。ルイスとモウリーンは、どちらか先に死んだ方がサインを送ると誓い合っていた。ルイスの妻ララ(シグリッド・ブアジズ)と館の購入を検討している知人夫婦が、館にどのような霊が憑りついているのか懸念しているためモウリーンもいっしょに調べにきた。だが、霊が憑りついているサインは感じられたが、モウリーンにも誰の霊なのか、どのような霊なのかはっきりしなかった。
モウリーンの仕事はパーソナル・ショッパー。多忙な女優キーラに代わって彼女の趣味に適う服やアクセサリーを、パリやロンドンなどのハイブランド・ファッションの店に出向いて買い付けたりレンタル契約してくるお抱えスタイリスト的な仕事だ。パリに住み、高級ブランドを買い付ける醍醐味は格別だが、不在がちで自由気ままなキーラのわがままには手を焼き、少し嫌気がさしている。そんなモウリーンにキーラのセックスフレンドのインゴ(ラース・アイディンガー)が、知り合いの雑誌編集者に紹介しようかと声をかける。モウリーンは、自由に写真を撮れないのなら仕事を変えても同じことと応えてやんわり断る。モウリーンの孤独な気持ちが少し晴れるのは、仕事で海外出張しているボーイフレンドのギャリー(タイ・オルウィン)とスカイプで会話するときくらい。
キーラにファッションセンスを買われているモウリーン。物質的な独占欲からは冷めていてるモウリーンだが、購入するハイセンスなファッションにはモウリーンもハイな気分に誘われる。だが、キーラとの契約で試着することはできないことが少しストレスになっている。そんなモウリーンのスマホに「私はあなたを知っている」と差出人不明の奇妙なメッセージが届いた。「あなた、誰?」と問いかけると、「当ててみな」とはぐらかす。キーラの家に買い付けた服を届けると、「着てみたいだろう」とモウリーンをそそのかすメールが届く。ルイスの霊のサインかもしれないと思ったモウリーンは、キーラとの契約を破り買ってきたばかりの服を着る…。憧れていた服を着てアクセサリーをつける快感は、モウリーンの欲望をますます駆り立てていく。そして、サインかもしれない差出人不明者からのメッセージに指定されたホテルへ行くモウリーンは、思わぬ事件に巻き込まれてしまう…。
【みどころ・エピソード】
主役の職業が、セレブな女優のファッション・ショッパーなだけにアサイヤス監督の前作「アクトレス~女たちの舞台~」に続いて今作もシャネルが衣装協力しており、事件に絡むカルティアのネックレスなどとともにヴィジュアルでの豪華さは見応えがある。平素はカジュアルな服で活動的なモウリーンが、グレードの高いモードを着こなして出かけてしまうセンスも印象的。
急逝した兄同様、心臓病の不安を抱いているモウリーンは、まだ霊能者としての能力は自覚していないがニュー・エイジの淵源でもある降霊術のフォックス姉妹やヴィクトル・ユーゴ―の降霊実験などにも関心を寄せていく。そうした霊的な世界とのかかわりに悩む一方で、パーソナル・ショッパーとしてファッションという物欲への現実の格闘にもさいなまれていく。モウリーンは、兄の急逝という喪失感のなかで身体的にも精神的にも、アイデンティティが壊れていくような不安定な状況へと落ち込んでいく。その葛藤からモウリーンは解放されるのだろうか。ラストのラップ現象の果てにみせたモウリーンの表情は、どのように解せるのだろうか。クリステン・スチュワートの演技力に引き付けられていくファッショナブルなサイコスリラーだ。 【遠山清一】
監督:オリヴィエ・アサイヤス 2016年/フランス/英語、フランス語/105分/映倫:G/原題:Personal Shopper 配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES 2017年5月12日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー。
公式サイト http://personalshopper-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/映画パーソナル・ショッパー-354495321574058/
*AWARD*
2016年:第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門監督賞受賞