Movie「イエロー・ケーキ」――クリーンなエネルギーという嘘
「イエロー・ケーキ」と聞けば、おいしそうなスイーツをイメージしそうだが、ここで言われている「イエロー・ケーキ」とは、天然のウラン鉱石を精錬して造られる黄色い粉末で原子力利用の燃料棒のもととなる。唯一天然に産出する核分裂核種であり、採掘に際して有害な放射性汚泥が未処理のまま大量に野ざらしにされている。再処理燃料としてクリーンなエネルギと言われてきたウラン燃料が、じつは採掘時から有害汚泥を出してることを隠されてきた事実に愕然とさせられる。隠されてきたウラン採掘の危機的状況を暴いていくドキュメンタリー。
ウラン鉱山の採掘現場や廃鉱になった町を05年―10年まで撮影し続けた。
最初に登場する旧東ドイツ南部のウラン採掘地。1990年まで採掘が続き、現在は汚染泥のボタ山を地中に埋め戻す作業をしている。幾つもある汚染ボタ山で作業する人たちの健康問題。アフリカ・ナミビアのウラン鉱山では女性たちも男性同様に運搬や爆破の仕事についている。だが、その健康被害に関する情報はほとんど知らされてはいない様子だ。オーストラリアのジャビルカ鉱山は、政府の先住民問題大臣がミラー族の説得を直接担った。そして、汚染された自然は戻らない。その過ちを繰り返すまいと、ジョーグ族最後の族長ジェフリー氏は、高額の補償金に目もくれず先祖から継いでいる自然を守ろうとしている。
経済的にも満たされ幸福感を共有できる生活をしたいという願いは、誰しもが求めて不思議はない。だが、幸せを求めるという大義のために、自らの生命の危険や地球環境を破壊していく汚染危機に目を閉じさせてきた人間のルールがあったことを、このドキュメンタリーは明らかにしている。日本でも放射能に関する専門家の意見が’利用’されているかのような今日、現在の状況について情報開示され、市民の理性に信頼する政治がなされることを期待したい。いまもって隠されようとしているルールを、知ったものとしての在り方が問われている。 【遠山清一】
監督:ヨアヒム・チルナー 2005―2010年/ドイツ/108分/原題:Yellow Cake: Die Luge von der sauberen Energie 配給:パンドラ 2012年1月28日より渋谷アップリンクほか全国順次公開。