米軍機の爆音に思わず耳をふさぐ少女。 ©Effendemfilm and Takae Films
米軍機の爆音に思わず耳をふさぐ少女。 ©Effendemfilm and Takae Films

ちょうど40年前にあたる1972年5月15日、沖縄(琉球諸島及び大東諸島)の施政権がアメリカ合衆国から日本に返還された。いわゆる’日本への復帰’だが、沖縄の米軍基地が無くなるのを願っていた復帰派の多くの人たちの声は届かず、ほとんどそのまま残った。2010年でも沖縄本島の19.3%(県全体でも10.7%)が米軍の軍事基地に占有されている。そして、いまも揺れ動く辺野古移転問題。沖縄と米軍基地問題は、長く熱い今日の問題だ。

いま世界40か国に700個所以上の米軍基地がつくられている。このドキュメンタリーは、その米軍基地にまつわる問題と、基地がなぜなくならにのか、その構造的な問題の本質を追っていく。

2007年にイタリア・ビチェンツァで起きた、地域住民による米軍基地拡張への反対運動。エンリコ・バレンティーノとトーマス・ファツィ二人の監督は、この反対運動に触発されて世界の’米軍基地’の状況とその存在理由を調べた。ドキュメンタリーでは、とくに3つの基地の状況が取り上げられている。

ビチェンツァ基地の反対運動は、住民投票を約束した候補者が市長に当選したが、国はその実施を阻んでいる。インド洋に浮かぶディエゴ・ガルシア島基地は、かつて2,000人以上いた全島民を英国などへ移住させ、完全に米軍基地の島になり、兵士たちのリゾート地と化している。そして、沖縄。日本に在る米軍基地面積の74%が沖縄を占有している。敗戦後の米軍統治時代から、戦闘意識を煽り立てられた状態の米軍兵士らによる、地域住民を巻き込む事故や事件は今日に至るまで後を絶たない。基地周辺の民家や保育園の上空を軍事ジェット機が轟爆音をたてて離着陸する。そして迷走状態の普天間、辺野古移転問題や高江ヘリパッド基地建設問題に抵抗する住民らの不断の反対運動などをしっかりと見据えて追っていく。

©Effendemfilm and Takae Films
©Effendemfilm and Takae Films

なぜ地域住民から長年にわたり、時には激しく基地反対運動を受けながらも、米軍基地はなくならないのだろうか。そもそも米軍の軍事基地はどのようにして各国に造られ、どのように維持されているのか。その基本的な疑問や基地が存在する構造的な問題の所在についてゴア・ヴィダルやチャルマーズ・ジョンソンなど帝国主義的な米国の世界戦略に批判的な論客らが分析していく。

軍事基地問題を単に感情的・感覚的な反対に留まらず、米国の軍・産・官・学の諸分野が複合的に関係する軍事基地の構造。その第一歩を知ることができるドキュメンタリーだ。  【遠山清一】

監督:エンリコ・バレンティーノ、トーマス・ファツィ 2010年/イタリア/74分/原題:Standing Army 配給:アンプラグド 2012年4月7日(土)よりシアターイメージフォーラムほか全国順次公開

公式サイト:http://kichimondai.com