©ITALIAN INTERNATIONAL FILM sri
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これまでに世界での出版部数が2,500万部を超えるともいわれる『アンネの日記』。ナチス・ドイツに一家全員が捕縛され、強制収容所へ送られたなかでただ一人生還できた父オットー・フランクによって「アンネの日記」が整理され、出版された。それによって彼女は、物事を本質的に思考し、感受性の瑞々しさからも、最も著名な15歳の少女として今も人々に知られ、語られている。本作では、アンネの友人ハンナ(映画ではハネリ)が、アンネとの思い出やナチス時代の自己のつらい体験をインタビューで答えた単行本『もう一つの「アンネの日記」』(’Memories of Anne Frank’)を基にして、日記を失った後もしっかりと生きたアンネの姿を描いている。

13歳の誕生日パーティで父オットー(エミリオ・ソルフリッツィ)からサイン帳をプレゼントされたアンネ(ロザベル・ラウレンティ・セラーズ)は、それを日記帳にして日々の出来事や思い考えたことどもを書きつづっていく。間もなく、オランダに侵攻したナチスのユダヤ人狩りを逃れ、知人らを招き入れ8人で隠れ家に潜んだアンネたち。だが、2年後に発見されアンネの一家もポーランドのアウシュビッツ強制収容所へと移送された。隠れ家に散らされたアンネの日記を、オットーの部下ミープ(バコニェ・チラ)は拾い集めて保管することでフランク一家の帰還を願う。

男女、成人と子どもに区分され、子どもたちは白煙を立ち上らせる煙突のある建物へと連れられていく。状況を読み取った大人たちだが、ただ見送るしかない。飢えと病気と死への苦痛と恐怖の日々。だが、アンネには空腹よりも文章を書くことができない精神的飢餓の方が、より重い苦痛だった。母エーディトは、アンネの必死の懇願に応え、監視役の囚人から買った小さなノートと短い鉛筆をアンネに手渡す。それさえも、すぐに見つかり取り上げられてしまい悲嘆するアンネ。

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強制収容所では、人の選り分けは日常茶飯。労働の分担、死への選別が淡々と機械的になされていく。母と別グループに分けられたアンネと姉のマルゴー(アレクサ・カプリエラン)は、ベルゲン・ベルゼン強制収容所に移送された。そこには、友人のハネリ(スルディ・パンナ)が収容されていた。互いに安否を気遣っていた二人は、危険を冒して夜警のサーチライトをかいくぐり、金網越しに指先を触れ合えただけで心を通わせられた。

ナチスの戦局が劣勢になり、前線が強制収容所にも近づいてくる。ますます劣悪な状況の中で餓死と病気で次々に倒れていく収容者たち。死期の迫る姉マルゴーに、懐かしい家族との交わりや家での情景を語りながら看取っていくアンネ。彼女自身にもその最後の時は迫っていた。

あまり語られてこなかった「アンネの日記」のその後。なぜ、いま映画化なのか。その問いにアルベルト・ネグリン監督は、「わずか13歳の少女が問いかけた疑問の数々は、何世紀にもわたって哲学者、神学者、科学者らが考え続けてきたことであり、あらゆる角度から考え抜いた答えが出されている。しかし、その答えは全能の神が人間に与える報いや罪に帰結したり、または人間の行いを規定する神の神の掟に則った良心と邪心で解説されることが多い。この映画では、ホロコーストという史上最悪の行為が描かれるが、それを行ったのは人間である。だから私は、ナチスによるイデオロギー的な政策、一部の人間による罪と限定せず、私たちすべての人間が犯した行為としてとらえようとした」と、制作した意図を述べている。

この原罪的理解とも受けとれる監督のことばは、全編を通じて人間を哀しくも気高い固有の存在者として見つめているかのようだ。子どもたちの教師でありユダヤ教のラビ(モーニ・オビディア)の登場にも、その表れを感じさせられる。ラビは、若い親衛隊将校に自分の昇級試験のために哲学を講じるよう命じられその要求を受ける。だが、授業に呼ばれた時間は、毅然と教師として哲学を講じ、聖書についてもナチスに迎合するようなドイツ的キリスト者のような解釈に堂々と反駁する。そして、ガス室へのグループに選別された病弱な若者の身代わりを買って出て、若い親衛隊将校にひとつの応え方を示して立ち去る。

「アンネの日記」を一冊書き終えることが出来なかったアンネ・フランクの人生の最終章。ここに描かれた「アンネの追憶」は、「人間とは」というネグリン監督の問いかけでもある。  【遠山清一】

監督:アルベルト・ネグリン 2009年/イタリア/99分 英語/原題:Memories of Anne Frank 配給:ゴー・シネマ 2012年4月14日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー

公式サイト:http://www.gocinema.jp/anne/