Movie「季節、めぐり、それぞれの居場所」――ここには、“団らん”がある
ここには介護・ケアされる人、する人たちが、互いに向き合ってつくり出している’それぞれの居場所’が記録されている。老舗の民間福祉施設、起ち上げて2年も経っていないデイサービスセンター、東日本大震災で被災した施設など。そこで働く若いスタッフたちの笑顔と発想が、あまり語らない入居者・利用者さんたちの心を溶かしていく。体力知力が弱まり、自分でできることが少なくなってきても、人は生きる。生きている’場所’には、今日もいっしょに生きたいという感じ合える心の家族が大切なのだということを、リアルに教えてくれる。ここには、家族となった人たちの’団らん’がある。
千葉にあるNPO法人「井戸端介護」には、宅老所「井戸端げんき」やデイサービス「縁側よいしょ」など施設がある。宅老所の玄関先から聞こえてくる大正末期の俗曲「ストトン節」の合唱。入居者の93歳のおばあさんが好きなこの曲をラウンジでスタッフと入居者らがみんなで歌う。満足そうなおばあさん。ここには大きな施設にありがちな’プライバシー’という名のもとに個別化され過ぎるような心配も雰囲気もない。NPOを立ち上げたのも施設長はじめスタッフらは30代から20代の若い人たちだ。
埼玉の民間福祉施設「元気な亀さん」には、心筋梗塞で倒れ脳に後遺症を追った58歳のお父さんが入居していた。妻と二人の娘らが施設を訪ねてくると、お父さんは笑顔で迎える。その元気な姿が、妻には何よりの心の支え。娘たちも自分たちが仕事につき巣立っていく姿を見せたいという。だが、2年後にお父さんは亡くなった。娘たちの巣立つ姿をどうにか見届けながら。
青森の「花まるデイサービスセンター」は、起ち上げて1年半ほど。この働きの大変さが分かり始めた時期だと、管理者の女性は言う。その大変さを乗り越えさせているのは、自分が行くのを心待ちにして漬物などをお土産にくれるおばあさんや、「花まる」に来ることを楽しみにしている人たちの笑顔。分かっていると思って始めた介護の働きだが、「こうあるべき」と言い切れない思いと触れ合いが語られていく。
東日本大震災で津波の被害を受けたNPO法人「愛福祉会」。がれきの山と化した施設の近所を歩きながら、施設長は「薪(たきぎ)にはことかかないなぁ」とご近所の婦人たちに笑って声をかける。お年寄りは知り合いのつながりが無くなると孤立感にさいなまれるのではないかと気遣い、新しい介護・ケアのサービスを考える必要があるという。
利用者・入居者の家族の状況がさまざまなら、働くスタッフの人たちの背景も多彩だ。引きこもっていた人、元ヤクザだった人、それぞれの人生の歩みの中で、いまの’居場所’に辿り着いている。出来れば避けて通りたい’死’との関わりも避けえない。だがその一つひとつが、生きていることの関わりを豊かにしてくれている。
それぞれに’居場所’をつくり合えるから、小さないざこざが起きたところで和みが生まれる。ここには、’居場所’があることの’団らん’がある。
被災地・石巻の仮設住宅にNPO法人「井戸端介護」の人たちの姿がある。被災した地域の中で孤立しがちなお年寄りを支えられる働きを被災地の支援ネットワークと相談しながら、訪問を始めている。新たな’居場所’が生まれようとしている。 【遠山清一】
監督:大宮浩一 2012年/日本/82分 配給:東風 4月14日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー。