Movie「ジェーン・エア」――自律していく女性を瑞々しい感性で描く
シャーロット・ブロンテ(1816年4月21日―1855年3月31日)原作の『ジェーン・エア』(1847年刊)は、世界で幅広い年代層に読まれ続けている。貴族の館で夜中に漏れ聞こえる女性のうめくような声。不審火や奇怪な事件などゴシック小説的なサスペンス味と同名の主人公の前衛的な生き方とラブストーリーは、刊行当初から大反響を呼び起こしてきた。これまで幾度も映画化・演劇化されてきた原作をモイラ・バフィーニ(脚本)とケイリー・ジョージ・フクナガ監督は、孤独な家庭環境に育ちながらも精神の自律と自尊心を求めて生きるジェーンをより鮮明に瑞々しい感性で再構成し描いていく。フクナガ監督の緻密な時代背景の描写と細やかで繊細な演出は、ジェーンの自由を求める女性像を現代に生き生きとアピールさせている。
ソーンフィールド館を早朝の静寂のなか抜け出すジェーン・エア(ミア・ワシコウスカ)。草原をひた走り、疲れ果て身体は激しい風雨に打たれ、衰弱して倒れ込んだ家のセント・ジョン・リバース(ジェイミー・ベル)と妹たちの介護を受けて助けられる。貧しいながらも仲の良いリバース家に接しながら、ジェーンは自らの幼少期の生い立ちを回想する。
幼くして両親を亡くし、裕福な叔母の家に預けられたが、愛情を感じられない叔母の冷たい態度とわがままに育てられている甥にいじめられて孤独な環境に置かれて育ったジェーン。やがて叔母は、性悪な子としてジェーンを寄宿学校に預けてしまう。劣悪な衛星状況と体罰的なしつけ教育。その厳しい教育環境の寄宿学校を卒業し、由緒あるソーンフィールド館の家庭教師に雇われる。館の主エドワード・フェアファックス・ロチェスター(マイケル・ファスベンダー)が引き取った少女アデールにフランス語で教育する仕事だと、家政婦長を務めるフェアファックス夫人(ジュディ・デンチ)は説明し、ジェーンにも優しく接してくれる。
3ヵ月後、主のロチェスターが旅から帰ってきた。ジェーンが郵便を取りに行く途中、ジェーンに驚いた馬にロチェスターが振り落とされ足を捻挫するという衝撃的な初対面。その夜、アデールへの教育成果を評価するロチェスターは、媚びることなく自分の意見をしっかり持って受け答えするジェーンの態度と対話を気に入ったようだ。だが、主が帰ってから、館の中は不思議な出来事が起こる。不気味な女性の甲高い笑い声、主の寝室でのカーテンが燃える不審火が起こる。
フェアファックス夫人は、ロチェスターがミス・イングラムと近く結婚するのではないかとジェーンに話す。そのミス・イングラムと何人かの人たちをロチェスターが館に連れてきた。身分の違いは分かっていても、ロチェスターに対して惹かれる思いを抱いていたジェーンは、館を去ることを決意する。ミス・イングラムとの結婚のことを聞き「あなたと離れることは引き裂かれる苦しみです」と自らの心情をロチェスターに吐露して去ろうとするジェーン。女性からの真摯な言葉を受けたロチェスターは、身分の違いを超えてジェーンにプロポーズの言葉を贈る。冷徹な叔母のほか身寄りはいないという孤独感を抱いていたジェーンは、ロチェスターのプロポーズを受け、家族が持てる喜びに浸る。
その結婚式の日。ロチェスターが隠し続けていた苦悩の事実が、明らかにされる出来事が起こる。
ゴシック小説的なミステリアスな映像、館でのフェアファックス夫人とジェーンの会話シーンは絵画のような光と影の演出。1840年代を設定した館や趣のある調度品、主要な出演者のドレスはインナーウエアに至るまですべて手縫いで作ったというフクナガ監督の細やかなこだわり。ボタンの使い分けでジェーンの心境を演出する繊細さの中で、ミア・ワシコウスカはジェーンと同世代の未知への不安と自律への揺らぎを瑞々しく演じている。死期が迫った叔母に、「私を憎もうとも、愛そうとも、私はあなたを赦します」というジェーン言葉に、信仰と精神の自律を保とうとする凛とした女性像を見せられる思いがする。 【遠山清一】
監督:ケイリー・ジョージ・フクナガ 2011年/イギリス=アメリカ/120分/英題:JANE EYRE 配給:ギャガ 2012年6月2日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー