映画「天国の日々 4K」――自然の荘厳な映像美と人間の罪性映す鏡

1978年に製作されたテレンス・マリック監督作品「天国の日々」(日本初公開は84年)が4月4日から劇場公開されている。昨年11月に妻の母国スペインへ移住する意思を表明して話題となったリチャード・ギアの初主演作品。また、マリック監督と撮影監督のネストール・アルメンドロスらが追求した“マジック・アワー”と呼ばれる日没間際の繊細な光(20分程度)による表現や風景の質感を、マリック監督による4Kへのブラッシュアップは再現性を高めている。本作が“傑作”と謳われるのには、自然の荘厳な映像美とともに、人間の罪性を映し出す「失楽園」の現代的解釈としても読み解ける物語の深さにもあるのだろう。
困難な自然光での
撮影が物語る光と闇
時代設定は1916年。19世紀末から20世紀初頭にアメリカは、東欧系・南欧系の“新移民”が大挙して流入し低賃金労働に従事し、第一次世界大戦に参戦していた。物語の核に据えられているのは、人間の内なる悪が表出する嘘と欺瞞。
主人公ビル(リチャード・ギア)は、シカゴの製鉄工場で上司を殴打し、シカゴから逃亡する。恋人アビー(ブルック・アダムス)と自分の妹リンダ(リンダ・マンツ)を連れて、うだつの上がらない現実からの変化を求め列車の屋根に飛び乗り、テキサス州西部のある駅に流れ着く。ちょうど麦の収穫作業のため農場マネージャーのベンソン(ロバート・ウィルク)が1日3ドルの賃金で季節労働者を集めていた。
広大な麦畑の中に建つ館に住む農場主チャック(サム・シェパード)は、なぜかわからないがビルの妹と名乗っていたアビーに惹かれる。ある日、ビルは病弱そうなチャックが、医師から余命1年と宣告されるのを盗み聞きしていた。ビルは妹と偽っていたアビーと結婚させて財産を狙おうと思い、アビーを説得して実行する。アビーがチャックと結婚したことで3人は麦畑の中の館に住み天国のような暮らしを味わう。だが、先代から仕えてkたマネージャーのベンソンは、ビルの魂胆を直感的に見抜いていてビルにひと言釘を刺す。結婚後も親密な感じのアビーとビル二人にチャックも疑念を抱きはじめた。そして、農場にイナゴが大発生し、あぶし出すためのたいまつの火が惨事を招き、やがて悲劇への道に堕ちていく…。

旧約聖書からのイメージ
をダイナミックに活写
登場人物たちのセリフは少ないが、全編を妹リンダのナレーションが、出来事の変化に揺れて動く大人たちの心理を率直に語り、心情の機微に触れていく。
また、物語の展開に聖書の物語をモチーフにした挿話も興味をそそる。創世記20章のアブラハムが妻サラを妹と偽ったことは、ビルが恋人アビーを妹と偽り、喧嘩ごしに護るビルの姿に呼応し、出エジプトの八つ目の災いでイナゴの大群がエジプトを襲い穀物を食い尽くした物語はチャックとビルの確執が顕わになるきっかけとして描かれ、人間の内的な罪性が外的な現実を表現するかのように旧約聖書からのイメージが活写されている。
ちなみに、本作のタイトルは、申命記11章のモーセの説教から採られている。神の命令に従う者への祝福の約束が語られている預言だが、この物語の人物たちの内心と行為は、人間の罪性を映す鏡のように展開していく。また、格差社会や労働問題が深刻化する現代日本に、「天国の日々」が描く移民労働者の苦難と夢は、今日的で重要な問いを投げかけるともいえる。【遠山清一】
監督:テレンス・マリック 1978年:オリジナル版/2025年:4Kレストア版/94分/アメリカ/映倫:PG12/英題:Days of Heaven 配給:アンプラグド 2025年4月4日[金]よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。(日本初公開:1983年5月)
公式サイト https://unpfilm.com/heaven/
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instagram https://www.instagram.com/unplugged_movie/
*AWARD*
1979年:第32回カンヌ国際映画祭監督賞(テレンス・マリック)受賞。第51回アカデミー賞撮影賞(ネストール・アルメンドロス)・作曲賞(エンニオ・モリコーネ)受賞。