民主化運動に期待する民衆に応えるアンサンスーチーPhoto Magali Bragard  ©2010 EuropaCorp - Left Bank Pictures - France 2 Cinema
民主化運動に期待する民衆に応えるアンサンスーチーPhoto Magali Bragard  ©2010 EuropaCorp – Left Bank Pictures – France 2 Cinema

今年4月のミャンマー連邦議会補欠選挙で最大野党・国民民主連盟(NLD)の党首アウンサンスーチー氏はじめ40議席(補選対象45議席)を獲得し、大きな話題となった。長年、軍事独裁政権下の圧政に在って非暴力民主化運動のリーダーとして発言し、1991年にアジアの女性として初のノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチー。彼女との生活、通信の自由を絶たれながらも、支え続けた夫と息子たちとの家族愛の深さ広さが厳しい現実として描かれている。

独立の父・建国の父とも評されるアウンサン将軍が、2歳の娘スーチーを膝に載せ外国列強に押し寄せられてきたビルマ(現ミャンマー)の歴史を童話のように語り聞かせるファーストシーン。その日、将軍は暗殺された。

英国オックスフォードに留学し、チベット研究者マイケル・アリス(デヴィッド・シューリス)と結婚し2人の息子たちと共にアウンサンスーチー(ミッシェル・ヨー)。彼女の元に母親の重病が伝わり、看病のためビルマに帰ったのは1988年春のこと。だが、外国の占領ではなく、自国の軍事独裁政権による圧政に対して、僧侶や学生らを中心とした反省政府デモは激化していく。

国民に尊敬されているアウンサン将軍の娘というだけでなく、オックスフォードで哲学、政治学、経済学を修め国連事務局で書記官補を務めた経験を持つスーチーに、反政府の運動家たちは選挙への出馬を求めてきた。母国ビルマを自由のある国へと解放したい思いは強くあるが、夫と子どもたち家族は英国に暮らしている。悩むスーチーに、後れてビルマにやってきた夫マイケルは「今がやるべき時だ」と励ます。

ビルマから強制帰国を命じられた夫(中央)と息子たちと再入国禁止を予測しビルマの残るスーチーPhoto Magali Bragard  ©2010 EuropaCorp - Left Bank Pictures - France 2 Cinema
ビルマから強制帰国を命じられた夫(中央)と息子たちと再入国禁止を予測しビルマの残るスーチーPhoto Magali Bragard  ©2010 EuropaCorp – Left Bank Pictures – France 2 Cinema

選挙への出馬の意を決したスーチーは、シュエダゴン・パゴダ前広場集まった50万人の民衆に向かって、夫と息子らにも見守られ初めて演説する。その影響力を見せつけられた軍事政権は、夫ら家族を強制帰国させ、スーチーに自宅軟禁令を下す。「自分を信じるんだ」と言い残して帰国させられた夫のことばを胸に、スーチーは非暴力で自由民主への戦いに一歩を踏み出して行く。

今年、連邦議会の議員となったアウンサンスーチーはヨーロッパを訪問し、ノーベル平和賞の授賞式も再度行われた。91年の授賞式では、夫と息子たちが代理で出席し、長男のアレクサンダーがメッセージを読み上げた。本作でも、その授賞式をアウンサンスーチーがラジオで聴き入るシーンが描かれている。授賞式で奏でられる「カノン」に合わせて、自宅のピアノの鍵盤に向かって弾き始めるスーチー。北欧とビルマに離されていても、家族の心の絆は断ち切られてはいない。この印象深いシーンと共に、スーチーの内面を深く読み取ったミッシェル・ヨーの素晴らしい演技は、人々の前に進み出て優しく接する笑顔や演説する毅然とした姿にドキュメントフィルムではないかと思わせられるほど感動させられる。 【遠山清一】

監督:リュック・ベッソン 2011年/フランス=イギリス/133分/原題:The Lad 配給:角川映画 2012年7月21日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国順次公開

公式サイト:http://www.theladymovie.jp