Movie「ドキュメント灰野敬二」――個性と自由の“不失”性を表現し続ける音楽家
アンダーグラウンドの音楽シーンで70年代初めから音楽ジャンルに囚われないバンド、ロストアラーフに’前衛ボーカリスト’として参加し、以来ソロ活動とともに現在もメインのバンド不失者などで活躍する灰野敬二(1952年5月3日-)。彼自身が自らの生い立ちと音楽について語るドキュメント。彼がインタビューに答えて語る、個性を信じ自由を求める真摯な言葉の一つひとつが、40年余の野心的な活動の重さを、清々しく優しい表現で伝わってくる。
大音量でのハードコアなロック、ノイズミュージック、フリージャズなど、灰野の音楽ジャンルは幅広くひと言では形容されがたい。その斬新・前衛的な音楽を創作し続ける姿勢は海外のミュージシャンたちの評価も高く、一貫してコマーシャリズムに関わることなくライブ活動とインディーズ流通でのリリースによって多様多彩な実験的作品たちを送り出している挑戦的な音楽家だ。
灰野の’自由’への憧憬が伺われる小学生時代のエピソードも、初めのインタビューで紹介される。引っ越してきたばかりで友達関係を優先し、学区を超えて通学する小学校を選択した。だが、自分の住む町内の子供会には、参加できず冷たい視線に拒絶された経験。いつの間にか、当たり前であるかのように身に着けてしまう、この’不自由’さ。灰野の自分が住む地域での子供社会への参加は、近所の教会の牧師に声を掛けられて通うようになった教会学校。教会の牧師とのつながりは、以後も続き音楽をやるために高校を「停学」することに落ち着いたときには、灰野の身元保証人になる。
こうした隔てるもの、束縛するものから’自由’になる追及は、灰野のあらゆる表現へと突き動かしている。そう感じさせられる’音’づくりへのこだわりの姿勢は、まさに求道者。
キャッチコピーにも使われている’人間の記号を捨てて、魂っていう暗号になれ’という歌詞の1フレーズが、この稀有な音楽家の存在性を証ししているかのように響いてくる。
2008年に病死した不失者のベーシスト小沢 靖。長年のパートナだった小沢とのつながりについて教会の礼拝堂の中で語るラストシーン。人間の個性は失われることのない永遠性を持っていることへの信念と、揺るぎない自由への信頼。最後の一言と幼子のような笑顔が心の残像に今も浮かんでくる。 【遠山清一】
監督・編集:白尾一博 2012年/日本/95分/ 配給:太秦 2012年7月7日(土)よりシアターN渋谷にてモーニング&レイトショー
公式サイト:http://www.doc-haino.com