©2011 SUPERSAURUS
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‘平和のヒロシマ”祈りのナガサキ’と二つの原子爆弾の被災都市が表現される。人類最初の被爆都市として非核・平和を国際舞台で訴え続ける広島に比べ、キリシタン迫害の歴史を物語、カトリック教会が立ち並ぶ長崎に’祈りのナガサキ’との表現はふさわしさが感じられる。その爆心地・浦上から車で30分ほどの三ツ山に、被爆高齢者のため特別養護老人ホーム「恵の丘長崎原爆ホーム」がある。年に数回ここを訪ねてくる小中高校生らに被爆劇を演じ証言を語りついているが、入居者らのその思いと祈りを2年間追い続けた初めてのドキュメンタリー。市内の被爆者の証言と医学的な研究を地道に続けている施設も取材し、心の軌跡だけでなく60数年経っても医学的に未解明な事柄へも真摯に目を向けていく。

ドキュメントが中心的に追っていくのは本多シズ子さん(76歳)。原爆症のため左目は失明し、両方の耳も補聴器なしでは聞こえない。その本多さんが、主演する原爆の体験劇。本多さんに限らず普段は車いすに頼る入居者らが、被爆劇を演ずるときは不思議と力がみなぎり精いっぱいの証言をやり遂げる。訪れた学生らと共に観る者の心も引き込まれていく。

長崎市内に住む谷口稜曄(すみてる、81歳)さんは、背中一面被爆しその治療の様子が敗戦直後の記録映画に残されている。’赤い背中の被爆者’と呼ばれた生死の境をさまよった谷口さんだが、いまも治療を続け8月9日には長崎市平和公園を訪れる。

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爆心地にほど近い浦上天主堂。戦後、瓦礫にの中から焼失したと思われていた木製のマリア像が見つかった。また、いまも無数のガラスの破片が突き刺さったまま保存されている原爆ピアノもカメラは追っていく。そして九州大学校内の一角には、原爆投下直後より調査収集された急性被爆症患者の病理標本が保管されている。「内部被爆の人体に及ぼす影響」を調べているのだが、今でも内部被爆により被爆者の病理標本の細胞で放射線を出し続けている事実は衝撃的だ。

いまも原爆の放射能は様々な形で影響を及ぼし続け、心にさまざまな恐れを与え続けている。原爆で213人の女生徒たちと多くの教職者たちが犠牲になった純心女子学園で歌い継がれている「みははマリア」の合唱曲。恵の丘長崎原爆ホームの原爆祭でも歌われているこの聖歌が、平和への祈りとなって心に響いてくる。 【遠山清一】

監督:坂口香津 2012年/日本/95分/ 配給:ゴー・シネマ 2012年8月4日(土)より長崎セントラル劇場にて先行上映、8月11日(土)より渋谷アップリンクほか全国順次公開

公式サイト:http://www.natsunoinori.com