アジトのイメージクラブを発見するウニョン(右)とサンギル。 (c)2012 CJ E&M CORPORATION & UNITED PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED.
アジトのイメージクラブを発見するウニョン(右)とサンギル。 (c)2012 CJ E&M CORPORATION & UNITED PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED.

狼と犬との交配種の狼犬(ウルフドッグ)。狼ではなく犬だけでもない、どちら付かずの存在。人間に訓練される特性と野生の獰猛さを持ち合わせている。その狼犬が人間の急所に咬みつく’殺人犬’に飼育され、しだいに機動隊の警戒網に追い詰められていく。独自の捜査でチンプル(疾風)と名付けられた狼犬の存在をつきとめた新米女性刑事ウニョン(イ・ナヨン)は、何者かによって命じられたまま’殺人’を重ねていく狼犬の孤高な寂寥感に、自分と響き合うなにかを感じていく。交通課の白バイ警官から念願の刑事課に配属されたものの男尊女卑の感性が残る中で持ち前の負けん気は性格は疎まれているウニョン。最後の標的がいる場所に向かって疾走する狼犬とオートバイで追送するウニョン、孤独な存在の相互に何らかの感性が、ソウルから郊外への疾走へと駆り立てていく。

直木賞を受賞した乃南アサの同名小説を韓国のユ・ハ監督が脚本も手がけて映画化。事件の発端となるプロローグのショッキングなシーンからオープニングタイトルでの迫力のあるエキゾーストノイズを響かせて疾走するオートバイ、様々なシーンがフラッシュしていくスピード感に引き込まれる。

自殺に偽装された男の焼死体の太ももに残る咬傷。解剖結果から覚せい剤を使用していた。事件を担当したサンギル(ソン・ガンホ)は、後輩に昇進の先を越されたあげくウニョンの新人教育まで押し付けられ面白くない。自殺として片付けようとしていたサンギルだが、焼死した男の覚せい剤の手がかりから少女売春組織の事件性もでてきた。そして、焼死体の男とつながりのあるサンフンが、路上で大型犬に急所を咬まれて死亡した。狼犬の存在が浮上しサンギルとウニョンは地道な捜査を続けていく。ウニョンは、今は’死亡’との記録が残されているが警察犬の優秀な指導官だった男の存在に辿り着く。。。

 (c)2012 CJ E&M CORPORATION & UNITED PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED.
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覚せい剤と少女売春組織に関係する者たちが、次々と狼犬に咬み殺されていく。組織内の人間によるのか、あるいは恨みを抱く何者かによる犯行か。緊張感のあるスピーディな展開のサスペンスドラマ。そして、ウニョンとサンギルの心のうちにある孤独感。ウニョンは刑事を目指す警察官として仕事から離れることが出来ず、夫と離婚している。中年刑事のサンギルも仕事熱心がもとで妻に逃げられ、男手で一男一女を育てている。ある意味、不器用な二人だが、刑事として失いたくない何かを感じ合うようになる。ウニョン、サンギルそして狼犬。それぞれ孤立した立場に在る寂寥感がリアルににじみ出ている。

‘殺人犬’に飼育された狼犬と、愛犬を’殺人犬’に育てて自分の復讐心を遂げようとする犯人。そこにも、もの哀しい孤独と怒りの結末が臨んでくる。そして、安堵の調べが聞こえにくい。「人の怒りは、神の義を実現するものではありません」(新約聖書:ヤコブ1章20節)からなのだろう。 【遠山清一】

監督:ユ・ハ 2012年/韓国/114分/原題:Howling 配給:ブロードメディア・スタジオ 2012年9月8日(土)より丸の内TOEIほか全国順次公開

公式サイト:http://www.kogoeru-kiba.com