ロビー(右から2人目)のアイディアに乗って4人の仲間たちは、グラスゴーから北ハイランドの蒸留所を目指す。 ©Sixteen Films, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve, Urania Pictures, France 2 Cinema, British Film Institute MMXII
ロビー(右から2人目)のアイディアに乗って4人の仲間たちは、グラスゴーから北ハイランドの蒸留所を目指す。 ©Sixteen Films, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,Urania Pictures, France 2 Cinema, British Film Institute MMXII

2012年2月の時点でイギリスの失業率は8%を超えている。100万人に達する労働者階級の若者層が職を失っている。明日に希望を持てないようなこの深刻な課題を、ケンローチ監督と脚本家のポール・ラヴァティは、コメディタッチなドラマで自分に与えられている才能と大切にすべき人の存在を認めることで、人生への希望を切り拓けるよとエールを送る。

スコットランドのグラスゴーに住むロビー(ポール・ブラニガン)は、暴力事件を起こし10か月前に少年刑務所を出所していきたばかり。自分は住む町には同世代の若者たちが仕事もなくたむろしていて、喧嘩沙汰も絶えない。しかもロビーは、父親同士の代からいがみ合っている宿敵クランシーと彼の仲間たちからしつこく付け狙われている。

彼らから売られた喧嘩を買って、裁判所から300時間の社会労働奉仕活動を命じられた。奉仕活動の現場では、酒好きのおどけ者アルバート(ガリー・メイトランド)、物静かなライノ(ウィリアム・ルアン)、マイペースな女の子モー(ジャスミン・リギンズ)たちと知り合った。現場指導員のハリー(ジョン・ヘンショウ)は、仕事の指導は厳しいが、おおらかな目で彼らを受け入れてくれる。

作業中に、ロビーの彼女レオニー(シヴォーン・ライリー)が、男の子を産んだと連絡が入った。ハリーの車で送られて病院へ着くと、ロビーとの結婚に猛反対のレオニーの父親マット(ギルバート・マーティン)たちと出会い、殴りつけられて追い返されてしまう。ハリーは、ロビーを自宅に連れて行き傷の手当てをする。そして、とっておきのウィスキー・スプリングハム32年の口を開けてロビーの息子ルークの誕生を祝った。ハリーは、ウィスキーのミニチュアボトルでテイスティングを愉しむマニアだった。

Sixteen Films, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve, Urania Pictures, France 2 Cinema, British Film Institute MMXII
©Sixteen Films, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve, Urania Pictures, France 2 Cinema, British Film Institute MMXII

息子ルークが生まれたことで、いのちの大切さを実感したロビー。レオニーにも「もう誰も傷つけたりしない」と素直な心情を吐露する。少年刑務所に入ることになった被害者家族との面談でも、素直に謝罪の気持ちを語れるようになったロビー。

ハリーは、ロビーやアルバートたち4人をウィスキーの蒸留所見学に連れて行く。その見学の説明で、ウィスキー樽の中味は、年に2%程度蒸発していきその消失分を「天使の分け前」と聞いた。テイスティングでは、自分でも気づかなかった感覚の確かさを発揮するロビー。近く一樽100万ポンドは下らないだろうという年代物のオークションがあると聞き、ロービーたちは、ある画策を胸に秘めてヒッチハイクで北スコットランドのバルブレア蒸留所を目指す。

日本でも、日本酒やワインのテイスティングはドラマでもよく描かれるが、それよりは馴染みの薄いスコッチウィスキーのテイスティング。ハリーは、ロビーを酒飲みにではなくテイスティングの感覚を自覚させ、酒造の文化的知識へと啓発する。
そこで終わっていれば、優等生の物語なのだろう。だが、暴力に明け暮れて下町で育ったロビーにはやはりダーティなアイディアが似合う。レオニーと生まれたばかりのルークのため真面目に更生することを目指して、うさんくさいバイヤーを絡めてダーティなアイデアにチェレンジする4人。ほめられた手段ではないのだが、ラストシーンの粋な恩返しに心地よい酔いが美酒の味わいを存分に楽しませてくれる。 【遠山清一】

監督:ケン・ローチ 2012年/イギリス=フランス=ベルギー=イタリア/101分/映倫:G/原題:The Angels’ Share 配給:ロングライド 2013年4月13日(土)より銀座テアトルシネマほかにて全国順次公開
公式サイト:http://tenshi-wakemae.jp

2012年第65回カンヌ国際映画祭審査委員賞、第60回サン・セバスティアン映画祭観客賞、BAFTA(英国アカデミー賞)スコットランド賞主演男優賞・脚本賞受賞作品