長崎で被爆した永野悦子さん。弟妹を呼び寄せた2日後に原爆投下がに起きた。いまも呼び寄せたことを後悔している。 ©2007 Home Box Office,Inc.All right reserved.
長崎で被爆した永野悦子さん。弟妹を呼び寄せた2日後に原爆投下がに起きた。いまも呼び寄せたことを後悔している。 ©2007 Home Box Office,Inc.All right reserved.

戦後68年。当時42万人都市の広島と24万人都市の長崎に投下された原子爆弾。68回目の8・6と8・9を迎える。だが、このような原爆投下の書き出しが、即座に通じない年代層が増加している。このドキュメンタリー作品冒頭の街頭インタビューのシーンは、東京・渋谷駅前の交差点で「1945年8月6日は何の日ですか?」との質問に、多くの若者たちが「知らない」「分からない」と答える。戦時中とはいえ、都市破壊を目的に使用された2つの原子爆弾。歴史的重大事の事実と証言を記録することの大切さを思わされる。

アメリカで暮らす日系三世のオカザキ監督にとって’ヒロシマナガサキ’がテーマになったのは1980年。それ以後、在米の原爆被爆者はじめ日本、韓国人被爆者や大江健三郎など作家、ジャーナリストらと出会い、いくつかのドキュメンタリー作品を作ってきた。

長年の取材と信頼関係から、本作では広島での被爆者6人、長崎での被爆者8人と原子爆弾投下に関与した4人のアメリカ人らのインタビューにまとめている。

熱線と爆風の破壊の凄まじさと身体的苦痛と無理解と偏見から社会的差別を受けた被爆者。恨み辛みではなく、たんたんと静かに記憶と経験を語り、治療の後を見せる姿には理屈ではない説得力がある。

破壊された市街を病室の窓から茫然と眺める少年。 ©2007 Home Box Office,Inc.All right reserved.
破壊された市街を病室の窓から茫然と眺める少年。 ©2007 Home Box Office,Inc.All right reserved.

当時は軍関係者であった4人のアメリカ人は、「あまりの威力に茫然とし、嬉々とした声を発するものなど一人もおらず、何とも言えない空気だった」と告白する。だが、「戦争終結を早めるために必要だった。後悔したことはない」と、確信的な答えが返ってくる。

オカザキ監督が、ヒロシマ・ナガサキと取り組むきっかけの一つとなったマンガ『はだしのゲン』の英訳本。その原作者の中沢啓治さんも証言者として登場する。当時6歳だったが、いま当時のセットを作れと言われれば、すぐ作れるほど記憶は鮮明だという。’原爆乙女’25人の一人として治療のため渡米した笹森恵子(ささもり・しげこ)さん。14人の証言者たちが、被爆時の状況、敗戦直後の生活、原爆病や偏見から差別と受け苦しみを負わされた人生を語る。都市という建物だけでなく、肉体と心を壊され自死していった人たちも多くいる。

「傷をさらけ出しながら、話さなければならないというのは、再び私のような被爆者を作らないため」と語る谷口稜曄(たにぐち・すみてる)さん。だが、その後冷戦時代にさまざまな地域で多数行われた原水爆実験は、ヒロシマ・ナガサキでの死者をしのぐほど多数の放射能被ばく者を生み出してきた。

2007年に製作され、今年(2013年)改めて劇場公開される本作。日本が独立国に復帰しても、被爆者らへの配慮はほとんどなされなかった。被爆者たちの患者の会を立ち上げ、国連で被爆者として初めて「ノーモア・ヒバクシャ」と演説した山口仙二さんは、今年7月に他界された。
「政府は私らが死ぬのを待っている」と、ある証言者の率直な言葉が耳に残る。記録された証言と歴史の事実を次世代に継承する務めは、この作品を届けられた市井の声にもゆだねられている。 【遠山清一】

監督:スティーヴン・オカザキ 2007年/アメリカ/86分/原題:White Light, Black Rain: The destruction of Hiroshima and Nagasaki 配給:Playtime 岩波ホールにてロードショー上映中(8月16日までの予定)ほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/hiroshimanagasaki/

【岩波ホール公開中のイベント予定】
同時上映:「ひろしま 石内都・遺されたものたち」 (リンダ・ホーグランド監督作品)
・8月5日(月)―9日(金)は、13:00頃から被爆者の方によるお話会(約20分)
・8月5日(月)仲伏幸子さん(5歳の時に広島で被爆)
・8月6日(火)三宅信雄さん(16歳の時に広島で被爆)
・8月7日(水)木村徳子さん(10歳の時に長崎で被爆)
・8月8日(木)山田玲子さん(11歳の時に広島で被爆)
・8月9日(金)木場耕平さん(12歳の時に広島で被爆)
連日4:30の回(「ひろしま」)は、外国の方にもご理解いただけるように日英2カ国語版を上映。
上映期間中、劇場ロビーにて「世界ヒバクシャ展」を開催。
6人の日本人写真家(森下一徹、伊藤孝司、桐生広人、豊崎博光、本橋成一、森住卓)が撮った世界の核被害の真実を展示。
http://www.no-more-hibakusha.net/
※都合により予定が変更になる可能性があります。