映画「標的の村」――本土には伝えられない沖縄・基地の現実
沖縄の琉球朝日放送(テレビ局)ディレクター三上智恵さんを中心に編成された報道スタッフたちが、垂直離着陸機オスプレイ配備が予測されてきた東村(ひがしそん)高江地区のヘリパッド新規建設反対運動を追ってきたドキュメンタリー。
東京などでは、沖縄へのオスプレイ配備は近年の問題のような感覚でいるが、20年も前から普天間基地、高江の建設予定地域では取沙汰されてきたことを、この作品から思い知らされる。そして、昨年9月29日、強行配備前夜の普天間基地ゲートが、反対する沖縄住民たちの座り込みによって22時間封鎖されるると言う前代未聞の出来事が起きた。こうした平和的な反対行動も、本土のマスコミ報道ではほとんど伝えられない。
沖縄北部に広がる亜熱帯林・やんばるのなかにある住民160人ほどの小さな集落東村(ひがしそん)高江。 ベトナム戦争時代には、近くにあるアメリカ軍ゲリラ訓練所内にベトナム村が造られ、住民はベトナム人の代役に狩り出され、ベトナム村落から友軍を救出・掃討する作戦行動訓練が行われていた。訓練とはいえ、ベトナム人の衣装を着せられた男女や子どもたちは、殺気立った海兵隊員の標的にされていた。訓練では枯葉剤も撒かれていたと、元海兵隊員は証言する。彼自身、その薬害の後遺症を自覚しているのだ。
いまは、6つのヘリパッドの新設が予定されている高江。その上空を軍用ヘリコプターが、回るように飛び交っている。高江の住民は、「集落は敵国の住居に見立てた標的にして訓練している」と率直に言う。
ゲンさんは経営するカフェはヤンバルの樹木を生かした平和の園そのものの雰囲気。反対運動で生きる’いのち’そのものまで枯らすことがないよう、時おり音楽会を開いて鋭気を養う。ゲンさんの長女もフランダンスを披露し、両親の心意気を受け継いでいる。 © 琉球朝日放送
普天間基地へのオスプレイ配備と高江のヘリパッド建設はつながっている。アメリカ軍のマスタープランでは、1992年からオスプレイの普天間配備が検討されていた。2006年には、高江集落を囲むような位置にヘリパッド建設が計画されていることを知った住民は、07年から生活を犠牲にして建設現場での座り込みを開始して反対した。ところが、08年11月に座り込みは「通行妨害」だとして住民15人が国から仮処分申請される。その中には、現場にはいなかった6歳の少女の名前まで仮処分申請されていた。
結局、住民の会代表の安次嶺現達(あしみね・げんたつ)さんと伊佐真次さんの二人が本裁判に訴えられた。力を持つ地方自治体や企業が、反対を表した個人を弾圧・恫喝する目的で裁判に訴えることを、SLAPP裁判と称してアメリカでは禁止されている。
裁判の判決は、安次嶺さんへの訴えを棄却し、伊佐さんに対して通行妨害禁止命令言い渡した。このままでは、平和的な座り込みデモによる住民運動が、通行妨害を理由に絡み取られていく。今度は日本国が、反対運動の動揺と委縮を狙い、高江の住民個人を標的にしている。 【遠山清一】
監督:三上智恵 2013年/日本/91分/製作・著作:琉球朝日放送 配給:東風 2013年8月10日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.hyoteki.com
201年度テレメンタリー年間最優秀賞、第18回平和協同ジャーナリスト基金奨励賞、第4回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル大賞、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、平成25年民間放送連盟賞九州沖縄地区報道部門最優秀賞受賞、2013年度日本ジャーナリスト会議賞受賞作品。