第二部「なみのおと 気仙沼」から。 © SilentVoice
第二部「なみのおと 気仙沼」から。 © SilentVoice

2011年3月11日、大地震とともに未曽有の大津波が東北の太平洋沿岸に押し寄せた東日本大震災が起こった日。2年8ヵ月を経たいまも、仮設住宅に住む被災者がおり、各地の復興もようやく緒についたようなゆるやかさ。とりわけ福島第一原子力発電所大爆発の事故処理は、いまもって放射能漏れの危機的状況から抜け出せていない。ただ、政府が出した収束宣言だけが、空虚に耳に残っている。

酒井耕・濱口竜介の二人の映画監督が撮ったこの三部作4作品のドキュメンタリー映画は、東北を襲った大震災の当時とその後、そして現在とこれからを対談形式での証言を’口承’していこうとしている。

第一部「なみのおと」は、大震災から半年後に取材した岩手県田老町、宮城県気仙沼、南三陸、石巻、東松島、福島県新地町など三陸沿岸部に暮らす6組11人の人々の対話が記録されている。冒頭、田老町に住む田畑ヨシさんが昭和8年3月3日大津波の紙芝居を演じた後、妹の東キヌさんと幼い日の大津波と今回の大震災当日のことなどを語り合う。気仙沼の3人の消防団員たち、友人を亡くした深い喪失感を語る女性、市会議員、会社を経営していた夫婦、東京で仕事に就いていた友人の所にしばらく避難生活したことで立ち直れたと語り合う二人の女性。それぞれが、震災後も戻って住んでいる自分の故郷について触れていく。

第二部「なみのこえ」は、気仙沼編の7組12人と新地町編の6組10人。第一部での対話形式で、震災当日のことから一年を経た現在、そして人々との触れ合いや復興のことなどについて語り合う。地域が絞り込まれ所での一年後ということもあってか、親しい者同士が当時を振り返る言葉はしだいに身近な話題へと移り心が開かれていく。それだけに亡くなった人々への鎮魂が気持ちと言葉の間に響いてくる。

第三部「うたうひと」から。 ©SilentVoice
第三部「うたうひと」から。 ©SilentVoice

第三部「うたうひと」は、第一部・第二部の3作品とは趣を異にし、言い伝えられてきた昔話・民話の語り部らにフォーカスを当てる。「雪わらし」「まめっことじぞうさま」「サルの嫁ご」など東北に伝わる昔話を伊藤正子(登米市)、佐々木健(利府市)、佐藤玲子(栗原市)ら3人の語り部が、抑揚豊かな味わい深い方言で語り聞かせてくれる。民話研究家の小野和子(みやぎ民話の会)が、聞き役を務めながら語り部らの一人ひとりとの対話を通して、生活の中で語り継がれることの大切さを説き聞かせている。

東日本を襲った大地震と大津波。その日を転機に経験してきた大きな悲しみや人の心との触れ合い。さまざまな困難や問題を、論理や政治・行政の事柄として捉えるだけではなく、そこに生き続けている人間の心と言葉としてどのように残していくことができるのか。第一部冒頭の昔の大津波を語る紙芝居、そして第三部での民話に生活感をもった伝承性への気づき。これら東北記録映画三部作は、明日に向かって’いま’をどのように民話化できるのか。新たなチャレンジを指し示している。 【遠山清一】

第一部「なみのおと」(2011年、142分)。第二部「なみのこえ 気仙沼」(2013年、109分)、「なみのこえ 新地町」(2013年、103分)。第三部「うたうひと」(2013年、120分)
監督:酒井耕・濱口竜介 日本/配給:サイレントヴォイス 2013年11月9日(土)よりオーディトリウム渋谷(4作品一挙公開)、11月16日(土)より渋谷アップリンクほか全国順次公開。
公式サイト:http://silentvoice.jp/utauhito/
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