映画「遥かなる勝利へ」――屈辱と悲嘆のなかで見いだした希望と愛の物語
1930年代のスターリンによる大粛清時代を舞台に描いた戦争ヒューマン・スぺクタル作品「太陽に灼かれて」(1994年作)、その続編「戦場のナージャ」(2010年作)の完結編。監督・主演のニキータ・ミハルコフが、人間の愛と希望、生きることの凄まじくも尊い日々を19年かけて描いた圧巻の大河ドラマ。
ロシア内戦および第一世界大戦の英雄セルゲイ・ペトローヴィッチ・コトフ大佐(ニキータ・ミハルコフ)は、スターリンの大粛清時代に秘密警察将校ドミートリ(オレグ・メンシコフ)の罠にはめられ、英国スパイとしてすべての栄誉を剥奪されて家族とも引き裂かれ強制収容所へと送られた第一部「太陽に灼かれて」。
第二部の「戦火のナージャ」では、記録では処刑されたはずのコトフが、じつは生存しているとの情報が入り、ドミートリはスターリンから直々にコトフの捜索を命じられる。ドミートリは、コトフの妻マルーシャ(ヴィクトリア・トルストガノワ)と娘ナージャ(ナージャ・ミハルコフ)を’家族’にしていた。だが、赤軍の青年団に所属しているナージャは、コトフはまだ生きていると信じていた。1941年、ドイツの開戦。コトフは、懲罰兵士として過酷な前線を転戦させられる。ナージャは従軍看護婦として戦闘に巻き込まれながらも父コトフを捜しまわる。
完結篇の本作は、前線に建つドイツ軍の城塞が重要な舞台。コトフは、懲罰舞台の兵士としてこの城塞攻撃に配置された。なかなか陥落できない状況にいらだつ指揮官が、酒に酔った勢いから懲罰部隊に無謀な正面攻撃を命じる。軍隊という特殊な集団に潜む個人のいのちを軽んじる悲哀が、緊迫した空気の中で微妙なユーモアさえ醸し出される。
攻撃開始の直前に、コトフを捜索しているドミートリが部下とともに現れた。危機を感じたコトフは、勝手に攻撃開始を叫びドイツ軍の城塞に向かって前進する。コトフを追い混乱の戦場へ飛び出すドミートリ。気を失ったコトフは、ドミートリが運転するジープに手錠をかけられ連行されていた。コトフは、スターリンの命令で名誉を回復されたうえ少将に昇格されていた。だが、それにはスターリンの冷酷な目的が待ち受けていた。
公開に先だち、「太陽に灼かれて」と「戦火のナージャ」の2作品が、11月にイマジカBS系で放映された。大作3部作だけに、視聴者層は限られるものの親切な放映プログラムだ。むろん、本作だけでの鑑賞でも、概要は十分に伝わってくるのだが、妻とのマルーシャとの再会、娘ナージャと戦場で出会えたコトフの決断。長い物語のうねりを知ればこそ、彼らの言葉の重みも心に落ち着いてくる。
ドミートリの画策に貶められてからの7年。ドミートリの手を逃れながらも、どんな戦場でも闘い続けて生きて来たコトフ。ただ、父親が生きていることを信じ、父と会えることだけを希望に戦場を生き続けてきたナージャ。二人を追う日々で憎しみだけでは生きていけない人の心の哀しさを思い知らされるようなドミートリの決断。それぞれの生き様から、心に希望と愛を抱き続けることのしなやかな強さが響いてくる。 【遠山清一】
監督:ニキータ・ミハルコフ 2011年/ロシア/150分/映倫:G/原題:Utomlennye solntsem 2 英題:Burnt by the Sun 3(The Citadel) 配給:コムストック・グループ、ツイン 2013年11月23日(土)よりシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国ロードショー。
公式サイト:http://www.haruka-v.com
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