映画「FLU 運命の36時間」――流感感染と感染防止策の極限 そのリアルな恐怖感覚
英語圏では普通の語彙なのかもしれないが、邦題の’FLU’からインフルエンザ・流感を思い浮かぶ人がどれほどいるだろうか。韓国語の原題は’風邪’。確かに直訳を邦題にしては、この作品の緊迫感と一殺多生的な感染防止策の実施を選択しようとする行政・政治判断の恐ろしさは伝わりにくかったろう。
実在する城南市盆唐(ブンダン)区(49万人を擁する区域)をモデルに設定し、人々に親しまれている景色が強力な感染力を持つ新型ウイルスが蔓延し、隔離区域に様変わりしていく惨状、群集心理をリアルに描写している。その最新の特撮技術とともに、極限の状況に置かれたとき人間はどのように生き方を選択していくのか、人間ドラマとしてもスリリングに描いている。
悲惨な出来事はコンテナに詰め込まれた不法入国者グループの悲劇から始まる。不法入国者グループ引き継ぎに来た兄弟が、コンテナのドアを開けるとおびただしい糞尿が流れだす。中を見ると弱々しい息をしている男がただ一人残し、数十人の不法入国者たちは死亡している。兄弟は、グループに説明するためにもその男を連れて、コンテナから立ち去る。
移動の途中、停車中に近づいて来たパトカーと警察官を見て車から逃げ出した不法入国の男。まもなく異変が起きた。運転していた弟の咳がひどくなり、身体に急激な症状が出ると間もなく急死した。ドラッグストア、コンビニ、人が行き交う街なかをさまよう不法入国の男。
一方、盆唐病院の感染内科専門医イネ(スエ)は、地下工事現場の穴に車ごと落ち込み緊急救助隊員のジグ(チャン・ヒョク)に救助された。彼女は一人娘ミル(パク・ミナ)と暮らすシングルマザー。イネは仕事に忙しいため、ミルは一人で過ごすことが多い。イネも緊急動員され、急増するインフルエンザ症状の実態が分かってくる。鳥インフルエンザH5N1型の変種で1秒間に3.4人に感染し、感染者は36時間以内に死亡するという猛威。この異常な感染力と猛威は大統領府にも伝わり、ついに盆唐区域は強制的に閉鎖された。だが、公園で一人遊びしていたミルは、人目を避けていた不法入国の男と接触していた。感染したミルは、強制施設での症状検査を待つ列のなかで順番を待つ。
2003年のSARS禍では約700人、09年の新型インフルエンザでは約28万人が死亡している。一都市の人口を壊滅させる威力は十分なウイルス禍。1時間に2000人が死亡していく猛威に、大競技上のグランドが遺体で埋め尽くされる光景は、かつての鳥インフルエンザや牛の口蹄疫感染を防止するため殺処分された家禽のニュース画像より悲惨だ。
奇蹟的に一都市の隔離で感染を一時的にとどめている状況で、緊急国防態勢に匹敵する軍や政府の方策が検討される。国のためには、人口500万人のおよそ10%を犠牲にしても、ここで食い止めるのか。あるいは人命救助を優先し対応策に時間をとるのか。それは国を愛することと、人を愛することはどう関係しているのかの問いでもあるのだろう。 【遠山清一】
監督・脚本:キム・ソンス 2013年/韓国/121分/原題:風邪 英題:Flu 配給:CJ Entertainment Japan 2013年12月14日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://flu-movie.jp
Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画FLU-運命のの36時間/709211605774986