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マドリッドのプエルタ・デル・ソル広場は2ヵ月にわたって民衆に埋め尽くされた。 ©Prince Production

特定秘密保護法案に反対する霞ケ関でのデモを評して政府与党の石破茂自民党幹事長は、自身のブログで「ただひたすら己の主張を絶叫し、多くの人々の静穏を妨げるような行為は決して世論の共感を呼ぶことはないでしょう。主義主張を実現したければ、民主主義に従って理解者を一人でも増やし、支持の輪を広げるべきなのであって、単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないと思います」と、市民デモとテロ行為を同一視した(2013/11/29。後日、表現の行き過ぎを修正)。

ただ整然とデモ行進するだけなら民主的だが、シュピレヒコールや歌の大合唱など民衆の声は暴力的という解釈なのだろうか。だが、このドキュメンタリー映画のモチーフとなったステファン・エセル(1917―2013)は、「デモは、テロではない!」、憤りの声を為政者らに聞かせよと世界の市民らに遺言している。トニー・ガトリフ監督は、エセルの著書『怒れ!憤れ!』に触発されて湧き起った4つのデモ運動を記録している。

4つのデモ運動とは、2011年5月にスペインの首都マドリッドで始まった’15M(キエンセエメ)運動’。高い失業率に若い世代からのメッセージがスペイン全土へと拡散していった。’15M運動’はフランス、ギリシャへと飛び火し、パリのバスティーユ広場やアテネの議会前での連帯集会へと広がる。そして、アラブの春への起因でもあるチュニジアでの成果商人の焼身自殺。

ガトリフ監督は、アフリカからヨーロッパに渡ってきた一人の少女の職探し、移民故の放浪などをとおして各地のデモによる’平和的な暴動’のありさまを追っていく。いわばドキュメンタリーなドラマのスタイルで’民衆の怒り’の運動を描いている。

©Prince Production
©Prince Production

このドキュメンタリーの原題はIndignados(怒れる人々)。いま、日本の若者に「怒れ!憤れ!」と檄しても、響くのだろうか。デモをしても社会は変わらないという観念が定着してはいないだろうか。若い世代のデモの集まり方は、変わりつつある。60年安保や70年代学生運動などの社会体制(システム)に対する反体制メッセージというよりは、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を介した連帯感から発せられる価値観の提示とでもいうのだろうか。

デモのあり方などが多様化しても為政者たちは、市民が集まり声を挙げることを怖れる。このドキュメンタリー・ドラマは、「無関心はいけない。世の不正義に目をつぶるな。怒りを持って行動せよ」というエセルの遺言が、生命力にあふれていることを記憶の墓碑に映しつづけてくれる。 【遠山清一

監督:トニー・ガトリフ 2012年/フランス/ウォルフ語、フランス語、ギリシャ語、スペイン語、ポルトガル語、英語ほか/88分/ドキュメンタリー/原題:Indignados/ 配給:ムヴィオラ 2014年3月1日(土)よりK’s cinemaほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.moviola.jp/dofun/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画怒れ憤れ-ステファン・エセルの遺言-/767145889969572?ref=stream