映画「東京難民」――自分で生きるスキルを培えない大都会の若者像
アルバイトの業種が多い大都会、日本の総人口の10%近くが暮らす東京。「なんとかなりそう」という根拠のない感覚で生きて行けそうな錯覚。そこに蟻地獄のように、嵌(はま)ると抜けられない大都会の落とし穴の怖さがリアルに描かれている。
‘大学生’という身分に甘んじて、勉強に熱心なわけでもなく、大学の友人やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での軽い人とのつながりに満足している時枝 修(中村 蒼)。だが、父親の失踪に気づかず、借間の家賃督促の郵便にも気づかず、大学で学費未納を告げられ即座に学籍失効の現実に直面して愕然とする。
住居・お金・携帯という現代を生きる基本ツールを失った修。それでも、なんとかなるだろうとネットカフェで眠り、バイトで食いつなごうとする。だが、ITスキルや何の資格もなく生きるすべを知らない若者が、社会のセイフティネットから漏れると社会の底辺へ転落していくのにあまり時間がかからない。少しばかりまとまったお金を手にすると、気が大きくなり、誘われてついていったホストクラブで巻き上げられ、しかも借金まで負わされて、そのクラブで働く羽目になる。
人のいい修に、初めてついたお客の茜(大塚千弘)。看護婦の茜が遊び過ぎないようにに気遣いながらも、ホスト仲間・順矢(青柳翔)の借金を茜に肩代わりさせてしまう修の気持ちのちぐはぐさ。看護婦の収入を超えてホスト通いしていた茜も借金でサウナ譲に堕ちていく。
自分のことで手いっぱいな状況なのに他人のことを慮る修の人の好さは、気弱さの裏側なのか。いや、とにかく貢がせるホスト社会の裏側に嫌気がさし、同僚と逃走した挙句に、その同僚が捕まると助けに行くのは、人の好さを通りこして、日本人の倫理性への期待なのだろうか。
裏社会とつながるホストクラブのマネージャー篤志(金子ノブアキ)は、そんな修に腹立たしさを覚え「世間知らずのくせに、世の中を舐めてやがる。おまえみたいな性根の腐った奴を見ると、虫酸が走る!」と修を罵倒し、叩きのめしてぼろ布ののように棄てていく。その修を介抱するホームレスの男。SNSのバーチャルなつながりではなく、何もかも失った人間同士、ブルーシートで生活するなかから修が気づく生き方とは何なのだろうか。かすかな光を感じ取りたい作品だ。 【遠山清一】
監督:佐々部清 2013年/日本/130分/映倫:R15+/ 配給:ファントム・フィルム 2014年2月22日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー。
公式サイト:http://tokyo-nanmin.com
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