ロマンス小説が好きなフィロミナおばさんと元政治記者スティーブとの辛口のユーモアは、ストーリーの重さにくすぐりで和ませてくれる。 ©2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
ロマンス小説が好きなフィロミナおばさんと元政治記者スティーブとの辛口のユーモアは、ストーリーの重さにくすぐりで和ませてくれる。 ©2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED

50年前に生き別れた息子を想い、その消息を訪ね歩く母親の物語。だが、同行するジャーナリストによって浮き彫りにされていく知らされていなかった出来事が、重く衝撃的な顛末へと導いていく。

主役のフィロミナ・リー役のジュディ・デンチ(現在)と子どもと引き離される10代の時のソフィ・ケネディ・クラーク、二人の素晴らしい演技が邦題タイトルの切なさを心に染みこませてくれる。イギリスの片田舎に住み、ロマンス小説が好きで感動したストーリーを誰かれなくおしゃべりしたがるフィロミナ。同行する元政治ジャーナリストのスティーブ(マーティン・シックスミス)とのアイロニーに富んだ会話は、前半の重く悲しい話をユーモラスに味付けし、後半のミステリアスな急展開へと引き込んでいく。

1952年、アイルランドのロスクレア。カトリック家庭に生まれ育ったフィロミナは、カーニバルの夜に遊びなれた男に誘惑され、一度だけのセックスで身ごもる。しつけや倫理的な面では厳しい風土の町。一家の恥としてフィロミナは否応なく修道院に預けられ、世間の白い目からは守られた。だが、修道院には似たようなな身の上の少女たちが収容されていた。生活を保護される代わりに一日中洗濯仕事に追われる日々。18歳のフィロミナもこの修道院で男の子を出産したが、子どもと接することができるの一日一時間だけ。その短い時間は、若い母親たちにとって何よりも充実した時間だった。

ある日、裕福な夫婦が高級車で修道院を訪ねて来た。このような時は、決まって誰かの子どもの手を引いてどこかへと去っていく。直感したフィロミナが覗き込んでいると、自分の息子と、仲良しの女の子の二人が車に乗せられ走り去っていく。何も聞いていないフィロミナには、大きなショックを受ける。

50年後。結婚したフィロミナには二人の子を授かり成長している。ある日娘は、自分の知らない幼い男の子の写真を見つめるフィロミナから話を聞き、元政治記者のスティーブに協力を求めた。スティーブは、男の子を引き取ったアメリカ人夫妻を捜しにフィロミナと渡米。間もなく8年前に病死していたことを知る。息子は、どんな生き方をしたのだろうか、母親の自分のことを少しは覚えてくれていたのだろうか。一時は落胆したが、募る思慕に押されてフィロミナは亡き息子の足跡をたどる決心をする。

若き日のフィロミナ役ソフィ・ケネディ・クラークの演技にも強く惹きつけられる。 ©2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED
若き日のフィロミナ役ソフィ・ケネディ・クラークの演技にも強く惹きつけられる。 ©2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHE PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED

実話の映画化で、原作のドキュメンタリーは2009年に出版されている。修道院がカトリック信者に限って寄附金(1,000ポンド程度)を受けて子どもの養子斡旋していた事実に胸が痛む。その根拠の一つには、修道院長の台詞が語っている「罪を犯したのだから罰を受けるのは当然」という観念があった。

神の名によって実施されていた’罰’。そこに、神の愛に起ち返る憐みの想いと配慮ははあったのだろうか。

一方でフィロミナは、この非人道的な’罰’を行った人たちに向かって、「私は、あなた方を赦します」と告げる。50年間の重く深い悲しみから、自ら解き放たれるためにも選択した素朴な信仰者の決断。「赦すことは苦しみが伴うのよ」と、信仰をもたないスティーブへの一言に、キリストの十字架の重荷を背負ったフィロミナの愛が響いてくる。 【遠山清一】

監督:スティーブン・フリアーズ 2013年/イギリス=アメリカ=フランス/98分/映倫:G/原題:Philomena 配給:ファントム・フィルム 2014年3月15日(土)より全国ロードショー。
公式サイト:http://www.mother-son.jp
Facebook:https://www.facebook.com/pages/あなたを抱きしめる日まで/530650340356121/

2014年第86回アカデミー賞作品賞・主演女優賞(ジュディ・デンチ)・脚色賞・作曲賞ノミネート、第67回英国アカデミー賞作品賞・英国作品賞・主演女優賞・脚色賞ノミネート。2013年第70回ヴェネチア国際映画祭脚本賞受賞、女性映画批評家協会賞最優秀女性映画賞・女優賞(ジュディ・デンチ)・ベスト女性像賞受賞作品。第38回トロント国際映画祭正式出品作品。