監督プロフィール:1998年仙台放送入社後、報道部記者・制作部ディレクターを経て、2007年より企画制作部プロデューサー。「川島隆太教授のテレビいきいき脳体操」の制作、書籍化、DVD化、携帯ゲーム化、海外展開を担当するほか、主に脳科学を題材にした全国ネット番組を制作。©クリスチャン新聞
監督プロフィール:1998年仙台放送入社後、報道部記者・制作部ディレクターを経て、2007年より企画制作部プロデューサー。「川島隆太教授のテレビいきいき脳体操」の制作、書籍化、DVD化、携帯ゲーム化、海外展開を担当するほか、主に脳科学を題材にした全国ネット番組を制作。©クリスチャン新聞

日本の65歳以上の高齢者の認知症有病者推定値は15%、約439万人と推計されている(2010年厚生省調べ、高齢者人口約2千874万人)。少子高齢化社会の日本では、身近な病症と言えるだろう。映画「僕がジョンと呼ばれるまで」(3月1日より公開)は、東北大学の川島隆太教授らを中心に学・産・官の共同研究チームによって開発された非薬物による認知症の予防・改善効果プログラム「学習療法」が、外国で初めての実証プロジェクトを追ったドキュメンタリー。「この映画が、認知症の人や介護する人たちに少しでも光になるのならうれしい」というプロデューサー兼共同監督の太田茂(仙台放送プロデューサー)さんに話を聞いた。

治らない病が’治る病’へ
温もりからのソフトな気付き

オハイオ州クリーブランドの高齢者施設エライザ・ジェニングス・ホーム。オープニングシーンで施設のスタッフ、ジョン・ロデマンは言う。「認知症に根本的な治療法はない。その進行を止めることはできない。僕はそう思っていた。1年前までは」。

この受け止め方は、日本人の多くにも共感できるだろう。だが、2011年5月より日本で開発された「学習療法」が導入された。「学習療法」とは、短い文節や日付、自分の名前など簡単な読み・書き・計算を毎日30分間実施する’脳のエクササイズ’。

ドキュメンタリーでは、4人の入居者とジョンとの触れ合いにスポットを当てている。なかでも重いアルツハイマー型認知症でうつ状態もみられるエヴリン(93歳、写真)が、徐々に持ち前の辛口ジョークを口にし、おしゃれに気を使うようになり、忘れていた手編みを思いだし、家族のことを思い出していく変化は感動的。

ジョンや訪問してくる家族らとの触れ合いの中でエヴリン(左)やお年寄りたちは徐々に自分を取り戻していく ©2013 仙台放送
ジョンや訪問してくる家族らとの触れ合いの中でエヴリン(左)やお年寄りたちは徐々に自分を取り戻していく ©2013 仙台放送

日本では、老々介護家庭の増加傾向や家族の老人性認知症に関してあまりオープンにされない状況がある。太田さんは、「日本では、人は年をとればそう(認知症のように)なるもので、病気ではないし、治るものでもないと考える向きもあります。だが、アメリカの取材では、病気の考え方が違っていて、認知症は根本的治療法のない病気と認識している人がほとんどです」。いわゆる’ぼけていく’という感覚でとらえがちな日本。

だが、病気であるならば’治したい’という願いが起こる。認知症の人をもつ家族の悲しみは、認知症の人と自分との宝物のような思い出が忘れられ、家族として認識されなくなることだという。エヴリンに忘れられた孫娘は、「私は、おばあちゃんを失いたくない」と言って、家族といっしょに施設にエヴリンを訪ねる。エヴリンは、家族との思い出を取り戻し、誕生日にプレゼントしていた手編みのブランケットを編み始めた。

アメリカの映画祭で本作を見た認知症協会の人は、「認知症をいたずらに深刻に描かず、そのままを描いている、と評価してくれたのがうれしかった」という太田さん。認知症が、’治る病気’だというソフトな気づきを感じさせてくれる作品だ。 【遠山清一】

入居のお年寄りらが'学習者'で、施設のスタッフは'サポーター'になって毎日30分間、脳のエクササイズ ©2013 仙台放送
入居のお年寄りらが’学習者’で、施設のスタッフは’サポーター’になって毎日30分間、脳のエクササイズ ©2013 仙台放送

監督:風間直美、太田 茂 2013年/日本/82分/英語/映倫:G/ドキュメンタリー/英題:Do You Know What My Name Is ? 配給:仙台放送 2014年3月1日(土)より東京都写真美術館ホールほか全国順次公開。

公式サイト:http://www.bokujohn.jp
Facebook:https://www.facebook.com/bokujohn/

2013年アメリカン・ドキュメンタリー映画祭観客賞(外国作品)受賞、クリーブランド国際映画祭ローカル・ヒーローズ部門ノミネート・女性監督部門ノミネート、ベルリン国際フィルム・アワード特別選考賞受賞、ロサンゼルス・ムービーアワード奨励賞受賞作品。