「赤ん坊の食事」(1895年)より。 (C)2017 – Sorties d’usine productions – Institut Lumiere, Lyon

1895年(明治28)12月28日、パリ・キャプシーヌ大通りのグラン・カフェ「インドの間」に張られたスクリーンで、ルイ&オーギュスト・リュミエールの兄弟が発明した撮影・映写の複合機シネマトグラフで撮影された10作品ほどが上映された。世界で最初のシネマの有料上映会は大成功。以来、リュミエール兄弟は“映画の父”と称えられている。エジソンが発明したノゾキ箱式のキネマトグラフにインスパイアされたリュミエール兄弟が発明したスクリーン上映のシネマトグラフが観客の心を動かしたものとは…。

イタリア人理論家リッチョット・カニュード(1879~1923)は、時間の芸術(音楽,詩,舞踊)と空間の芸術(建築,彫刻,絵画)をつなぐ“第七の芸術”と映画を定義した。リュミエール兄弟の映画会社が1895年から1905年の10年間に1422本の短編作品を製作した。それらの作品群から厳選し4Kデジタル修復された108本の作品を収めた本作は、“第七の芸術”と定義された「映画」の創世記を語っている。

リュミエール兄弟の足跡たどる11の章題

リュミエール兄弟へのオマージュ作品である本作は、彼らが開発し製作した映画の足跡を11の章題にまとめ、監督・脚本・編集したカンヌ国際映画祭総代表でリュミエール研究所ディレクターを務めるティエリー・フレモーが洒脱な語り口で道案内している。(日本語吹替版は落語家の立川志らくがナレーションを担当)

第1章:まず初めに/第2章:リヨン リュミエールの街/第3章:幼年時代/第4章:働くフランス/第5章:楽しむフランス/第6章:パリ/第7章:世界は近い/第8章:喜劇の要素/第9章:新たな世紀/第10章:すでに映画/第11章:リュミエール また近いうちに

兄オーギュスト(左)とルイのリュミエール兄弟 (C)2017 – Sorties d’usine productions – Institut Lumiere, Lyon

画家だった父アントワーヌは写真家としても名を成し、ルイはフィルムの改良に携わり写真乾板の工場を建てるほど一家の事業は成功していた。94年にエジソンのキネマトグラフを見て刺激を受けたアントワーヌはオーギュストとルイの兄弟に研究と開発を命じたという。

1秒間16コマ送りの“活動写真”。本編に登場する108作品から有名な作品を拾ってみる。
・「工場の出口」:ルイが撮影した最初期の作品で、リュミエール家の自社工場から仕事を終えて出てくる大勢の従業員男女を撮っている。本編では3つのバージョンが登場し、それぞれ撮影日が異なるようで日によって服装が違っており、なぜか犬がじゃれついているバージョンのあり明るく楽しそうな工場のイメージが伝わってくる。まだ世間に公表されていない映写カメラが据えられているのに、カメラの方を見ずに歩いている従業員たちを見て取って、ナレーターのティエリー・フレモーは「ルイはすでに演出している」と指摘する。
・「赤ん坊の食事」(1895年):兄オーギュスト夫妻が娘アンドレにスープを飲ませているほほえましいドキュメンタリー。風に揺れる庭の木々、テーブルの紅茶やコニャックなど朝の食卓の風情が興味深い。
・「水をかけられた散水夫」(1895年) 庭に水を撒いている散水夫が、ホースを折り曲げた少年のいたずらで顔に水が掛かり追い掛け回すというストーリー性を持った世界初のコメディ映画。初めてのグラン・カフェでの映画興行にも上映された。
・「ラ・シオタ駅への列車の到着」(1896年) リュミエール家の別荘があるラ・シオタ駅に到着した蒸気機関車を撮った作品。スクリーン右下から斜めに迫ってくるアングル、列車の黒い影と駅の陽ざしの白で二分割された画面構成の迫力と映像美は有名。アカデミー賞で5部門受賞したマーティン・スコセッシ監督の「ヒューゴの不思議な発明」(2011年)にも登場した作品なので記憶のある方もいることでしょう。

上記の代表的な作品のほかにも、1900年のパリ万博に際して建てられた当時のエッフェル塔やピストルでの決闘、日本の剣道家の立ち合いなどリュミエールの映画会社のカメラマンたちが世界を歩いて撮ったパワーに驚く。作品の多くはドキュメンタリーだが、それゆえの人間の生き様が眩いばかりに生気に溢れている。20年後にはチャップリン、キートンが人々をひきつけ、やがて“活動写真”はトーキー“映画”へと発展する。光と影の芸術でもある“映画”の創世記を、ティエリー・フレモーは、「リュミエール兄弟が製作した映画は、歴史ではなく、人々の生活だ。そして人々の生活は歴史より深遠なものである。だからこれらの映画は、極めて重要なのだ。われわれの想像力、つまり、今日では『芸術映画』と好んで呼ばれているものの扉を開けるものであったから」という映画監督ジャン・ルノワールの言葉を引いて、映画120周年のメッセ―ジを語っている。 【遠山清一】

監督:ティエリー・フレモー  2016年/フランス/90分/映倫:G//原題:Lumiere! 配給:ギャガ 2017年10月28日(土)より東京都写真美術館ホールほか全国順次公開。
公式サイト http://gaga.ne.jp/lumiere!/
Facebook https://www.facebook.com/gagajapan/

*AWARD*
2017年:第30回東京国際映画祭特別上映作品。