映画「A2-B-C」――いま大切なのは健康被害状態のチェック
3年前には、首都圏で放射線量の高い地域のトピックスが連日のように報じられていた。いまは、首都圏のマスコミに取り上げられることはほとんどない。今年4月には、原発20キロ圏では初めて田村市都路地区の避難指示が解除された。除染作業が進み放射線量と被曝の心配は無くなっているかのような思いがわいてくる。
ほんとうにそうだろうか。5月10日から劇場公開されるイワン・トーマス・アッシュ監督のドキュメンタリー映画「A2竏達竏辰」は、マスコミではほとんど報じられなくなている、福島の放射線量と暮らしの関係を子どもと母親の視点で追っている。
タイトルの「A2竏達竏辰」は、福島県で実施されている甲状腺検査の結果ランクのこと。’A2’の判定基準は「5・0ミリ以下の結節(しこり)や20・0ミリ以下ののう胞を認めたもの」で、18以下を対象に実施した検査結果は、11年にA2以上の判定は36・3%だったのが、12年の検査では45・3%と発表された。だが、従来より検査を広範囲に丁寧に実施したことによる増加として健康被害対策などの対応はとっていない。
4月15日に都内で行われたアッシュ監督と音楽評論家ピーター・バラカン氏のトークイベントでは、「園庭の砂場は放射線量が高いのですぐ隣の滑り台で遊んでいる答える保育園児たちや、A2判定を受けた高校生たちが坦々とアッシュ監督に答えているのは衝撃的だった」と感想を漏らしていた。アッシュ監督は、除染された学校のすぐ隣の道路や空き地の放射線量の高い数値を心配して学校に対応を求める母親なども取材している。だが、学校はもちろん福島に残る決断をした人たちからも「不安がらせることはしないでほしい」と、四面楚歌の状態に追い込まれつつあるという。
2000年から日本に暮らしているアッシュ監督は、1年前に取材し作品にした情況と現在もほとんど変わっていないという。願っているのは現状をきちんと知り対応してほしいということ。「除染作業はお金が動くから実施されている。だが、いま大切なのは子どもたちの放射線量の内部被ばくや、健康被害を止めること。いま何も対応しないで10年後に『あの時やっておけばよかった』というよりも、いま子どもたちの健康を守るためにお金を使って、10年後何も起こらない方がはるかにいいでしょう」と語っていた。【遠山清一】
監督:イアン・トーマス・アッシュ 2013年/日本/日本語・英語字幕付/71分/英題:A2竏達竏辰 配給:A2竏達竏辰上映委員会 2014年5月10日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.a2-b-c.com/
Facebook:https://www.facebook.com/A2BCdocumentary?fref=ts
2013年ウクライナ人権映画祭ドキュメンタリー・グランプリ受賞、グアム国際映画祭最優秀賞受賞、フランクフルトニッポン・コネクション映画祭ニッポン・ビジョン賞受賞作品。